被災地への提案/遷都の勧め  筑紫磐井

 大地震と津波を前になすすべもない思いをいだかれた方が多いと思う。しかし、近代日本においては関東大震災という大災害、―――私も経験したことのない大災害についての経験を一応知識としては持っているはずである。これを踏まえて新しい東北の地図を描いてみたい。

 関東大震災の直後の東京は、帝都復興・再興で活気づいた。しかしその後それらは、別のニュアンスを含みながら新概念「新興」へ向って疾走した。あの、新興俳句の「新興」である。東北は復興・再興では無く、新興されねばならない。

 新興―――今までの東北を元に戻すのではなく、新しい価値を付与することにより今まで東北が実現出来なかった新時代を迎えることは可能ではないか。それは「遷都」(首都機能移転)である。可能かどうかは別として真剣に考えるべきことであろう。

 今まで遷都についてはさまざまに議論され、最近では栃木・福島も候補に挙がったが結局見送りになり、担当する国土交通省の首都機能移転企画課という部署も今年の七月かぎりで廃止の予定だ。遷都の意欲は薄れている。しかし、こんな時期だからこそ遷都なのだ。もちろん候補地は、岩手、宮城、福島のいずれかである。

 理由は次の通りである。①東北の復旧には膨大な公共投資がなされるが、これに首都の建設投資を兼ねさせるのは一挙両得で合理的だ。膨大な費用を要する首都移転はこの時期を逃して財政的に二度と行えないのではないか。②復旧される東北は災害に対して最大・最強の防御機能を持つべきだが、それは首都の要求される機能と同様である。③東北の復旧に要する膨大な費用は、東京にある首都機能資産を売却することによってかなり捻出できるはずだ。少なくとも被害地の補償費用(土地買い上げ費用)は東京中枢三区の資産を売り払って支払い可能であろう。④東北の復旧は民需では進まないのではないか、膨大な官需が必要だが首都移転は最大の官需となるであろう。⑤おそらく温暖化、ヒートアイランド現象が進む日本にとって(当面のエネルギー・電力危機も含め)、高度の政治経済機能の中枢は北の寒冷地に移るべき宿命だろう。

 敗戦に次ぐ最大の災厄に見まわれた日本にとって、東北は鎮魂の地になるべきである。とすれば、首都(日本の中心機能)が移ることは、東北が日本の中心となることであり、古代以来従属の地位におかれていた東北の地に対する最大の鎮魂となるはずである。

(「小熊座」7月号・<東日本大震災 緊急特集>より)

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