清澄白河   千種創一

  • 投稿日:2019年12月07日
  • カテゴリー:, 短歌

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清澄白河   千種創一

飲み干せばペットボトルは透きとおる塔として秋、窓際に立つ
眠い鉛の匂いのなかで神様のようにあなたは活字をひろう
白に白かさねて塗れば天国は近く悩みと祈りは近く
雨季の庭に細いきのこがあるようなあなたの愛しい誤字を見つける
傘二つ部屋に干しつつお互いの暗黙へ手を伸ばさずにいた
胸にあなたが耳あててくる。校庭のおおくすのきになった気分だ
心が心を求めつつ 濁流に魚は閉じるまぶたを持たず
あなたが和紙を裂く力、唇を離したときの湿った力
台風のあとの運河はふつふつと心のような三日月うつす
祭りばかりの国に住もうね 白菊は死を思わせる咲き
石なげてしばらくあとに着水の音の聞こえる、ゆうやみの奥
泥になった砂が砂へと乾くまであなたと話す今朝の事変を
ゆるゆると濁りが澄んでいくように路線は通常ダイヤに戻る
八日目の創造しよう。水底に散らばる活字を拾い集めて
彫るというよりは刷られて歴史とは燃えやすくあり僕らの葉書
海なんて泳いでわたる美しいものを呑みこむ鯨のように

千種創一(ちぐさ そういち)
一九八八年愛知生。二〇一五年『砂丘律』上梓。二〇一六年、日本歌人クラブ新人賞、日本一行詩大賞新人賞。
近く『千夜曳獏』刊行予定。Twitter: chigusasoichi

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