第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載
Unnamed Hurricane 何村 俊秋
ここにいるわ。彼はこの「世界」のカギカッコの部分でもあるの。(青山景『ドリップ』)
Ⅰ -topia
一本の柱は立てりその上を日ごと曇りてゆきたる空へ
もう来ない列車を待ちて並びいる昏き列ありぼくの後ろに
各階に空(カラ)の鳥かご置かれいて鏡のなかの高層建築
かつて駅なりし時計屋にて耳を澄ませり 耳の奥のしずけさ
地下街に風の行方を思うときぼくの身ぬちにひらきゆく地下街
坂道をぼくの背中が降りてゆく白くまどろむ暮らしの底へ
Ⅱ iridescence
離してもいいよ、いま ふわりって、すこしあかるい、あれは月かな
すべて写真のなかのこと ひらくたびにひとつ、ひとつ、閉ざされる目がある
わからない ひかりは窓にくだかれている その窓が割れている日の
かがんで手をかざしたらよく聴こえるよって 夜にだけ咲く花のこととか
いつかきっと返すんだろうそのときのためにより深く忘れていたい
あの虹のむこうで君も 虹にきづいてくれますように
Ⅲ junkmail
ぽかぽかとペットボトルをへこませて俺ら、来世じゃ光になるよ