第8回詩歌トライアスロン鼎立作品受賞連載 篭と宿営地 斎藤 秀雄

篭と宿営地             斎藤 秀雄

喪神のエレボスの手を雪片のか黒きまでに蝕む朝か

エアダクト絶えず結露のしたたりて巫娼の腹を舐める冷光

霜の香のふと離陸せりはろばろと天球上を這う墨流し

日の冴える地平の木々はほの白い錫釉、国家は黒い牛乳

糖蜜が雪にしぶきてしずかなる、否、無音なる刵刑の匂い

巫医の首刎ねて恍惚たるまひる氷の下に蘭黒く咲く

贋祖国なれば幼き皇帝よ去勢の牛を乳柱とせん

手は谷にあったと気づく ももいろの膚を撫ぜて樹海へ向かう

宇宙卵果然と腐りひびわれをはらわたのなき鳥ども集る

目は闇に慣れて円天井のそこ重量のないプリズムが降る

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