第8回詩歌トライアスロン鼎立作品奨励賞連載 エアーリプライ 髙田 祥聖

第8回詩歌トライアスロン鼎立作品奨励賞連載
エアーリプライ 髙田 祥聖

菅虎雄は友人・夏目漱石の手紙をすべて燃やしたらしいけど、そして彼は夏目漱石書簡集を作る際に「手紙は残っていない」と言ったらしいけど、それが本心からのものだったかなんて考えても正しい答えが出るはずはきっとないし、正しい答えがあるはずのないものから答えを出さなければならないのだとしたら、誰も傷つかない回答を選ぶのがいい。言葉がほんとうに葉っぱだったとしたら、わたしはどんな木で、もしわたしが木だったとしたら、それはどんなによかっただろうか。花を咲かせたいような気もするけれど、たぶんそれはわたしの役割ではない。少なくとも本来の。わたしの。わたしがいま言葉を紡いでいるのは約束があるからで、この行為はその約束とはべつの約束を尊重していることに他ならない。正直、わたしがいましていることは別段必要なことではないし、お金になるようなことではないし、ある意味で、誰かのエゴに付き合っているような、そして、それもまた別の誰かのエゴであるような、そんな気が、まあいい。心にだって誤字脱字はあるよ。前置きはここまでにして、もしこれがなにかの試験勉強だとしたら、ラインマーカーを引くのはここから。いまそう言われて、あなたは身構えたでしょう。身構えなかったところで結果は変わらない。わたしも身構えなかったあなたにがっかりしたりしない。言葉にどんなにか力があったとしても、お腹に入れてしまえばきっといっしょくた。さっき、木の話をしたけれど、どこにも行かない行けないのはあなたのほうで、あなたのほうがよっぽど木のようだね。枝をのばして、風を宿して、でもけして太くならない木。それがあなた。わたしの好きなロシアの絵本にリボンを付けてもらう白樺が出てくるんだけど、あなたはたぶん自分が木だという自覚はないね。さっき、夜更かししているひとが二人ほどわたしを覗いていったけど、相手にしなかったからどこかへ行ってしまった。行ってしまったってべつに構わないけど。けど、けど、って、あなたの口癖がうつってしまった。しまったってべつに構わないけど。排他的なのってあんまりよくないよ。祈りってそういうものじゃないでしょう。本来ならば、綺麗に。近くで見ることが最善でないものだってあるはずだよ。油絵なんて近くで見れば罅に気がついてしまうことだってあるだろうし。あなたはわたしになにか期待しているようだけど、わたしは火。ひかり。ねつ。滅ぼしてしまうの。滅ぼしてしまいたくなるの。あなたがわたしに対して発したのと同じだけの熱量が生み出されて、わたしとあなたほんのすこしだけ似てた。
しりとりのことを覚えている?
あの遊びは一度あなたに奪われた遊び。いまではもうやらなくなってしまって、言葉だけがこうして残されている。音楽も。あなたが発したあの言葉はわたし宛てだったの。彼からは返信が来ないけど。まあ、順接の接続詞みたいなひとだったから。疲れないのかしらね、彼。ううん、いまは彼の話をしているのではない。あなたの。あなたのことを話している。よく風に散ったりするでしょう。絵の具は。買い忘れていない。あなたは臆病者だと言う、ただそれだけのためにここまで来たんだよ。わたしもね。戦争の話も、あなたとしたかったな。戦争も、あなたとしたかった。

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