永劫回帰   有沢 螢

永劫回帰   有沢 螢

花ミモザサラダに添へるタルタルのソースが足りぬ春の宵かも

イゾルテは黄金の髪を帆と張りてアイルランドの海を渡れり

永劫に汝に回帰す媚薬とも毒とも知らず飲みし盃

御身ゆゑわれは死すべし 何ゆゑに生くと言はずや吾がトリスタン

トライアングルの一辺をなす泣きぼくろ多き乙女とまむかふ真昼

トリスタンの伯父に生まれし運命をなかば呪ひてなかば愛しむ

否みがたき時とふものを孕むゆゑ少女のうちに老婆は育つ

ほのぐらき体内にありてほほづきのごと赤らめる自我といふもの

スカートのポケットに白きくちなはを忍ばせコンチネンタルタンゴを踊る

携帯のタロット占ひ「死神」とでてこの恋も終盤となる

ルードヴィッヒの巨漢ついばむ淡水魚 美を見し者の悔いのごとくに

『菫色の童話集』のなか姫たちは老ゆることなく湯浴みしてをり

作者紹介

  • 有沢 螢(ありさわ・ほたる)

短歌人所属。歌集『致死量の芥子』『朱を奪ふ』『ありすの杜へ』(砂子屋書房)
短歌人賞、日本歌人クラブ優良歌集賞受賞

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「作品 2011年12月2日号」の記事

  

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