ある朝の日常 コマガネ トモオ

コマガネ詩131115

ある朝の日常 コマガネ トモオ

春のごく短い期間を終えると注目されずにひっそりと立ち尽くす桜並木
なんの変哲もない並木道の根元に苔がむしている。
桜のために四十年前にしつらえられた樹木用の花壇には
足を踏み入れる無礼な輩はそうそういないので
這うもの、伸びるもの、胞子嚢を咲かすもの、様々の種類の苔類がみられる。
ひっそりと明るい繁栄が広がっている。
急いでいる時にその花壇を斜めに駆け抜ける無礼の輩であるこの自分は
申し訳程度に名を挙げてみるのだその苔植物の。
ミズゴケ、ゼニゴケ、モウセンゴケ
靴底の溝にはまり込んでしまう分が育つまでにどれほどの時間を
要したか。
踏みにじった草の名前を挙げながら黄泉から駆け上がってきた
入沢康夫を思い出す。
いや、私、本当に申し訳なくなる。
黄泉から駆け上がると同等に急ぐまでの理由はなかったなあと
顧みることになる。
異次元から瑣末な日常への飛躍を遂げる速度で駆け抜けたかというと
いや、普通に日常から日常へと渡るだけだから
常歩(なみあし)で
歩道を歩く価値しかないなと思う。
足もとに絡まった草を今度は丁寧にほどいた宮沢賢治も影絵で想起される。
通過儀礼を終えて戻ってきたこの世界で草を優しくほどいた王子にように
足下に絡まるわずわらしさがあったとしても
丁寧にほどこう。
ひっそりと明るい繁栄がひろがっている。
やはり急いでいても花壇を駆け抜けるのはやめようと思い立ったのだった。

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