

第11回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載
からだは海に
横山 航路
こんなにも海は青くて
伝えきれなさにもどかしくなる
素足の裏が熱いのは
からだから溢れだす言葉を
砂浜がそっと溜めこんでいるから
波がすこしずつ近寄ってきて
むかし飼っていた犬を思い出す
波が戻っていく
あの犬もきっと波だったんだろう
足にはべっとりと潮の感触がして
陽に照らされたところからほぐれていくのを感じていた
ふたりが海になってしまう前に
おたがいの話をしよう
帰るべき家があったこと
愛が透明でざらざらとしていること
はやく話し合うべきなのだけれど
記憶はやわらかい水で
海鳥の鳴く声に
はっ、と
言うべきことを失ってしまう
じっと立ち尽くしていても
夏痩せしてしまったふたりではどうしようもなくて
ただ
遠くへ小さくなっていく船に
私もです、と告げて
声が届いたかはわからないけれど
私たちもです、と言い直して
それで許された気になっている
ぬるい風
ひとが生まれそうな匂いに
ぐっと伸びをしている
「こういう晴れた日に生まれたかったね」
すこし頷きかけた顔を
風になびいた髪が隠した
ここももうすぐ海になる