スプリングコート・フェアが終わるまで 服部真里子
祖母宛てに来た郵便が催しを告ぐ春先の催し物を
改札からまっすぐ海の見える駅なにを貸したか憶えていない
魂のうつわを舟と呼ぶならば舟の隣で一夜を過ごす
おだやかに下ってゆけり祖母の舟われらを右岸と左岸に分けて
祭壇の花の種類は時期により違うと今の時期はこれだと
判断をひとまず措いて窓の外見ている母と伯母と従姉妹と
北欧の水の売られるキオスクに伯父とふたりで照らされており
死に顔と遺影を描けば死に顔の方がはるかに似せやすいこと
こうやって見ているあなたが眠るのを植物図鑑のような顔して
風物詩 あらんかぎりのくしゃくしゃのカーネーションを柩に詰める
ああ白い花の名ばかり口をつき電気をつけて寝てもいいかな
喜びや悲しみではなくそれはただ季節の変わり目の蜃気楼
スプリングコート・フェアが終わるまで私の中にひそやかな森
積載量いっぱいに春の花のせてトラックは行く真昼の坂を
作者紹介
- 服部真里子(はっとり まりこ)
一九八七年生まれ。二〇〇六年早稲田短歌会入会、二〇一〇年大学卒業により退会。二〇〇九年同人誌「町」参加、二〇一一年解散。