冬の馬 岡野絵里子

冬の馬  岡野絵里子

 光を集めて透き通る 音管の底を通るのは冬 管はやがて 露を
凍らせた木々になり 林の底を 馬たちが駆け抜けていく
 
 「冬の馬」というリトグラフを 二人で見た 古い通りの古い画
廊 底を通過すること それが画家にとっては冬なのだと 私たち
もまた 昏い谷を歩く者なのだと
 
 冬 と呟くと 唇はお互いを呼ぶ形になる 畳まれていた来歴を
少しだけ広げてみるのだ 一対の静かな息になっている
 
 空が遠ざかる 追うように 子どもが作った凧が上がり 柔らか
い羽根を透かして 私たちは見上げる 昇っていくものの切れはし
を 光を溜めた器の上端を
 
 誰かが雨足の白い線を描き始めた 私たちの上に だがやがて 
線は不連続な点になり 膝のあたりで 雪になった

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