家に帰る 山川藍

家に帰る 山川藍

昼礼をぬけて事務所で泣いている 猫が死んだのではありません

紙づまり何度も起こすコピー機に生まれかわれと電源を切る

新品の祖母のバッグはしまわれて二階の奥で高級なまま

わたしではなくてわたしの内臓をおもんばかって母が泣き出す

ヤマナカの魚がみんな死んでいて目に飛びこんでくる 来てほしい

寮を出る お別れ会はタンドリーチキンとカレー、あと梨を剥く

味蕾には心があってわたしより感じやすくてカレーが無味だ

晩年であるかもしれぬままに立つ婦人科検診二度と受けない

未来にはいつも希望があることの 井上怜奈のCMを見る

仲間だと思うあなたとかなしみを具体的には分けあわないが

点滴の袋を替える母親と叔母 医師(せんせい)がいちばん細い

生きものの気配はあふれほっそりとした医師(せんせい)の息子の話

本日でチーム解散 この家が好きだったなと医師(せんせい)が言う

骨壷にダイヤのネックレスかける 値段を叔母が言ってふき出す

母は由美 叔母は奈美

「ママんとこ」から「奈美ちゃんのところ」へと母が実家の呼び名を変える

作者紹介

  • 山川藍

1980年生まれ。2001年まひる野入会。2011年まひる野賞。

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