はなざかりの歌 望月 遊馬
薫るほどに近づいた目と目が
たがいに 匂いを受けとる
わたしは火だるまになった少年を
まもっていたい
「きみはいつもわらっているね。ほんとうは寂しいくせに」
少女がひらひらと歩いている
シーツの匂いのする朝 ベッドで絶望したきみのてのひらは
まだ あたたかで
「くちづけはそっと処置される」
夏だ
きみは妹のために編んだ 鉤爪の鋭いかぜ(風)のような喪服を
ぼんやりとみつめていた
牙と牙の しずかなたたかい
まもるために 牙をむき 血がにじみ
二頭か 二人か わからない
男の祈りは 傷だらけになってもなお
すっくと立ち まえをまなざして
それでもまもれなかったものたちが
こぼれおちて 喪に服している
沁みこんでいく匂いは
敗戦の男たちの背に そっと宿っていて
戦争はいつも まもれなかったものたちを
ものがたりの外側へ追いやる
男は それに気づいていない
けれど 責められるものなど いない
繊細な男たちは いつも たたかわない
いやちがう
繊細な男たちのたたかいは 牙と牙の内側
もう永くつかわれていない 脳のしずけさを
火花のようにちらして
それはもう
血を流さない戦争だ
はなざかりの夜
わたしは男たちを愛する