火の話 安田 茜
光とは波であること wikipediaから教わった生きるヒント
昼の木の肌はきっと脈打って、そうおもうのは凡庸なこと
ビスマスのいびつでうつくしい虹をひとみはじっくり映してくれる
愛や恋よりもただただつやつやの石をもとめて闇夜をあるく
忘れ物をわすれたことが忘れ物だからあらゆる手を拒否します
棄てるのにちいさなレジ袋を買って棄てるまえにちいさくおりたたむ
巨大数のこととか話してもらいつつおなじこの世にいまながれる血
胸あたりまでブランケットをかぶっても怒りがからだを操っている
半分にくすりを割って飲んでいる日々にひびいてゆく遠吠えが
とうめいな布があったら祈りだと思ってさわりそうだから嫌
あぶないのでなかにはいってはいけません アメシストの晶洞のなかには
みずからのみぎてとひだりてをつなぐこれがいちばんわかりやすい火
八月はずっと手放さないほのおその熱さごと手が忘れない
その皮膚が鎧であればよかったが違うからいなくなったひとたち
おいのりのどこまで本気で祈れるかなんて関係ない 柘榴石
さざなみをそうだね例えるなら(足をつつんでくれたりする)膜だね
感情的であることは悪いことではなく氷は入れるほどよいとする
朝食はいつも摂らずにゆく道のきょうはどこにも花を見なくて
あなたより私が必ず、先に死ぬ そう決めてからふれる金剛
夏の日に脳けずれておもいださずにいたものがもうわからない
・プロフィール
一九九四年京都生まれ。現在は短歌誌「西瓜」所属。第四回笹井宏之賞・神野紗希賞。