毛羽立ったはらわたを晒すもの 和田 まさ子

毛羽立ったはらわたを晒すもの
和田 まさ子

指先に力を溜めて
いりこの頭を
そっと引き抜く
頭とくっついて
黒く細長いものが抜ける
途中で千切れるものもある
うまく抜けたときは息をつく
漆黒の長いものは二センチくらいで
この魚の意思のすみかだったところ
干し上げられているたくさんのいりこは
みんな少し毛羽立ったかたまりを隠し持っている

カタクチイワシという名を持っているが
瀬戸内海を行ききしていた小さな魚にそぐわない
いりこという名で生きて干されて食べられるのだ
銀色のコスチュームで流線型
群をなして泳いでいた

海水のぬくみに遊ぶ月日は短く
袋詰されて
スーパーや食料戸棚に置かれる月日
ひとも生きながら干され
気力も欲望も
見えないうちに外に出て
それらで地上は黒く覆われている

それぞれにひねて曲がり
錐のように尖って
突き刺さる
突きやぶる
ニンゲンのやわな楽園をあざけって
黒黒としたはらわたを
いりこよ、晒せ

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