零度の熱、瓦解のための渦と樹木と 松尾真由美




零度の熱、瓦解のための渦と樹木と 松尾真由美

ふらふらと無関心なふらふらと浮腫を泳いでどこか他人事
の巣の周辺を粗雑にあつかい見えないものが悪意のようにふらふらと浸透していくこの
地は北風の天国だよ震動する震動する震動する砂漠の片隅いつも崩れ去っていくものが
あっていつも削がれた器官があっていつも事後の驚異からつねに後悔があとを絶たない
開かれるものはそうして忌避していたものだということの証左となって迷妄を顕在化さ
せるのだ笑っているのは誰?始まりはとうの昔の出来事だったなおまた猥雑な根の生成
 
見逃してばかりいて見過ごしてばかりいて安穏をこうして
いとなみ耳と目の細胞は均衡を保っているなにも聞こえてなかったのかもしれなかった
耳を澄まして鼓膜の奥で音階を拾っていても変調に気づかない音域が隠れていてあらら
損害は以外に大きいあららさらに膨らむ予定ですって退行する退行する奪われたんじゃ
ない作ってしまっていたのだったよほとんど抗えない疾病が鋳型に圧搾されている無力
とか非力とかふかぶかと無化に向かって塵になれれば幸福だけれど行なわれる永久運動
 
渦は渦のままにより渦を混濁させて意味と無意味と正気と
狂気がなんだか大気に溶けこんで人を侵していくのだった不均衡不平等不寛容不衛生の
不不不不不磁針の狂いが個性だよ潮の匂いみどりの匂いのかぐわしい芳香に素朴な情が
絡まって厳密さを欠いていて空費の兆しに慄くから回想に躍起になる知ったことも知ら
ないことも予兆のなかの冷気として檻はただしく機能してただ落下していく小石を感じ
て逃亡の準備だけを情けなく用意して言い訳のように無用な声を準備する不具と不問の
 
艶めかしい花火のようにあっという間に消えていった慰藉
のように存在は接点を喪失させてしまったあとで壊死した傷を復活させる繰りかえし繰
りかえし手狭な髄を責め立てるからどこかに水脈があると妄想することの悦びよ探索な
どしない反転などしない埋葬などしない霧の中で遊ぶ子供の沈溺の種子を育てて虚空を
見あげ呆けている甲羅の割れた甲殻類の生身の震えがこのように饒舌であったとて無能
のくちびるが干乾びるだけで目新しい海を求めて青い青い水面の抱擁はいまだあるか?
 
終わらないことの残忍さをあらためて思い知るとき終わら
ないことの快楽の深みにあらためて溺れるとき蘂の武装は溶けていて甘い香りを放って
いて切り取られた茎と牙とを陽にさらして酔っているその無防備は秩序を乱しさらにあ
らたな秩序を作って悩ましい混沌にさらに溺れることの岩の想いを波にさらわれた金属
や樹木に譬えるのはおこがましいから織られた布を破ってみる不思議だよねこんなにも
痛いのここのところがこんなにも痛くって痛くって涙がでるよ不思議だよねこれが通路
 
ひとすじの通路が光っている戸惑いを消すように循環する
おおらかで不明なものが深い溜息のごとく頬に近づいては遠ざかる接近と接触とが枠を
壊してほそい糸を繋げている胎動が聞こえていて私はもう内側に入ってしまった逃れる
ことのできない鳥の羽の機微もぐりこめばもぐりこむほど愉悦の襞にからまって関節が
ぽきぽき鳴って喉の渇きを訴えるもっともっと水がほしいいままでの渇きとこのさきの
渇きのためにいまだ蕾を咲かせるために獣の蜜をほしがることの徘徊はいつも許されて
 
もつれていくもつれていく根と茎の昂揚を慣れない樹皮が
感応しているだまっていても拡張されるゆるやかな地平線初夏の暑さにみどりはもえて
設計図は破られていっさいの計画は頓挫して皮膜の再生にあやふやな地理を埋めてなお
すこやかな植物を求めていて時間と空隙がまじりあうとき築いたものがくずれる轟音を
体内が発している無化だよ無化だよ通例の無ようるわしく洗われて零になることの零よ
何色がいいのかしら生まれたばかりの赤子の気分で朝に目覚めそれは追放の結語となり
 
秘めやかに陽の熱を吸いこむ正午の樹木の下のすこしだけ
涼やかな蔭にまぎれて裸体の私が息づいている夢のようだね辺地の突端に滞在する旅行
者の面持ちで夢想の大人しい三日月を太陽に対置して月が溶けていくようで滴る滴る月
の先端のあたりへと哀しみをこめてみるみどり色の溺者となる森の夢と橋の夢と谷の夢
と滝の夢を喪失してないことにして素描はつねにごまかしだろうね命題が見えてくるよ
う偽善が暴かれるよう軽薄や軽率に取り巻かれているよう遠いところで捕縛されている

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