みえない壁 伊武トーマ




みえない壁 伊武トーマ

 言葉の壁
 意味は通じても
 思いは通じない
 言葉の壁
 
 時代の壁
 流れのまま
 身を任せればいいものを
 追いつこうとして
 とり残される
 時代の壁
 
 現実の壁
 放射能の雨が降る
 飲み水も食料も
 燃料もない被災地の人々へ
「雨に濡れたら真水で洗い流すこと」と
 言った者勝ち 紋切型の
 常に悪文家である政治と
 いつの時代もとり残され
 犠牲となる孤独な群衆の
 埋めようのない現実の壁
 
 みえない壁
 ストロンチウム
 セシウム
 ヨウ素一三一……
 みえないけれどそこにあり
 あろうことか体の内部で牙をむく
 みえない壁
 
 意味も思いも打ち砕き
 身を任せれば確実に被ばくし
 後出しの情報にとり残されるまま
 先回りする風評と
 蓄積されるµ(マイクロ)m(ミリ)
 Sv(シーベルト)のみえない壁によって
 切り刻まれたFukushima ――
 
 やがて地図から抹消され
 人類の記憶から忘れ去られるだろうこの
 Fukushimaの空と海
 山と川と緑深き地……
 そこに棲むすべての命を隔てる
 放射能と
 放射性物質と
 風評と
 差別と
 恐怖と
 怒りと
 憎しみの
 
 みえない壁

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「作品 2011年6月17日号」の記事

  

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