「南京お粂」 廿楽順治

「南京お粂」 廿楽順治

ねがいましてはごえんなり 
かんがえるそばから穴があいている 
だからって誰からもちやほやされるわけでない 
仁義礼忠葛根湯 
いま君にとりついたのは 
南京お粂だね 
生来まじめなことが嫌いにて 
六十路にちかく、ひと並みならば 
(数珠爪ぐりて) 
後生いのるべき年なるに 
ああやだやだ 
チーハー(字華)を好むこと 
三度の食事よりもはなはだしい 
おれの好きなことばを賭けさせてくれ 
牛込区市ヶ谷仲之町二十九番地 
門前でお粂に泣きついた 
諸君 
このあいた穴はとうてい伝達されない 
だがそんなことは 
明治の苦労人でなくともすぐわかる 
ねがいましてはごえんなり 
割ることも 
引くこともできない 
わたしの体は何にとりついて生きるのか

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