旋頭歌 まがつ火ノート 藤井貞和











旋頭歌 まがつ火ノート 藤井貞和

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見うしないながら、たしかに 捲(=めく)られていた
 
立ち上がるうたのかずかず、裂かれるノート
ひとひらをきみにささげて、声はなかった
 
太陽を盗む男の うた物語
にびひかりして、青い火がひらめいていた
 
あれは核爆発だった。いいえ ちいさな
でも烈火といえるぐらいの、ちいさな怒り
 
高濃度、それとも劣化、二つに分けて
選択肢。爆弾にする? 原電にする?
 
原発を燃やせば燃やすほど、ひとごろし
爆弾でイラクの兵を殺した、わたし
 
原電で燃やしたあとの 燃えかすならば
良心のバーを低くしさえするならば、だよ
 
原電を燃やしたあとの、燃えかすでなら
作ってはいけないとさえ思わなければ
 
どうもしやしない、こまった処理のためなら
タングステン弾頭よりも重たくってさ
 
トイレ無きマンションみたい、って言われてる
一室にうんこおしっこ。四十年間
 
ブルガリア ソフィア、花の胞子のわたげ
あしたには汚染の国へ 帰らねばならん
 
はるばると来て訴える、おのれへの鑿
打ちすえる脳天。さびしいわが Japanese
 
「不死そして出来事」=国際会議に立てば
さびしくも― のどに岩打つpresentation
 
くだかれて波間、汚染の土うずたかく
日本からやってきた灰のひとりか。わたし
 
思い出すひたごころ、わがまぼろしの船
思い出せ。揺(ゆ)り出でよ わが第五福竜丸
 
まつろわぬ、と岩田うし。その長歌から
訴える、みやこ火消しともろともにして (岩田うし=岩田昌征氏)
 
まがつ火を消すと、人々 あまたうごめく
若きらの生殖遺伝子に危険が迫る
 
二十倍、ミリシーベルト きみのサティアン
基準値を引き上げる、わが文部科学省
 
花づなの海岸の国、縁取る廃炉
ついにそれ、活断層に身をまかせよう
 
柏崎、あらうみの底 断層がもし
きみたちは きみの愛する家族とともに
 
断層がもし 人身をもとめるならば
愛妻を、愛する夫(=つま)をささげられるか
 
もろともに倒れて、底におりかさなって
ちるちると ねずみのようになく、人柱
 
玄海を旅立つけむり、ひとひ過ぎれば
翌日の空を覆うか、韓国の空
 
韓国の子供を襲う、そして台湾
海流が沿岸をひたす。中国もまた
 
人住まぬチェルノブイリの雲、ただよって
子供らが故国をどこ、と知らないという
 
いつの日か― 夏目雅子のようにわたしが
復活する。その日まで涙のキャンディーズ
 
千年のさきへ約束― 我が子の子の子
しあわせを手と手ととって、かちとるまでは
 
しずまれよ、宝永火山。わたしとともに
南海の眠りをとわに ここにください
 
時満ちる。美智子陛下よ 翻訳があり
実作もあなたは書いていた 現代詩
 
どうしても樺美智子と かさなるけれど
人しれぬ微笑みがもし 真実ならば
 
日本国陛下 あなたが沖縄の地へ
早くからゆかれたことを評価するなら
 
願うのだ。われら、東京二十四区として
皇居地をとわに「福島特区」にせよと
 
高齢者 心のケアのためにいまこそ
地に這うか、天にうごくか。宮内庁病院
 
皇居地の青を、みどりを 被災の国へ
心ある陛下夫妻なら 分かち与えよ
 
天罰という暴言は― 反省したから
過ちを許せ。石原東京都知事
 
石原よ 陛下に奏上し、進言をせよ
皇居地を東京福島県のまんなかに
 
京都御所 一条内裏のあったあたりを
改装し、退去するのはいかがであろう
 
長かった歴史には 愚昧な天皇もいた
後鳥羽院のような 激しい 天皇もいた
 
英邁な天皇がいま求められるか
もし陛下 この建言を受け入れるなら
 
わが生のさなか まさかに見ることになる
英邁な天子が東京を去る。まぼろしか
 
菅直人内閣総理。沖縄の地を
見捨てようとしてきたあなたを 許せないけど
 
危機管理内閣としていま、なすべきをなし
東電や御用学者を抛(=ほう)れ 遠くへ
 
千年の子孫のために なせ。大政策を
かれらから感謝をされる大政策を
 
海抜の高きところに居住空間を
安全な教育施設を。たしかな避難路を
 
平安の御世を教えよ。歴史学者よ
平安の音をかなでよ。物語学者
 
貞観の大震災を わすれさせるな
その六年まえに富士山が噴火したことも
 
三万という数ではない。一人一人
一人一人 想像できるのか。詩人はいないのか
 
源氏物語? わが千年紀? わが千年忌!
発言をせよ。源氏物語研究者たち
 
歌人たち。声がどこでも、はりさける喉
はりさける 寒満月で海上を照らせ
 
五七五、俳句の友よ。喪にあらがって
安易なる喪をいう向きと、句もて たたかえ
 
時代から時代へ繋ぐ、携帯のメール
きょうはたおれたこいびとたちの叫びを
 
このときに柳田ならば、どうしたろうか
折口のこのときに何をしたろう。不覚
 
よどみなく岡野弘彦、声の澄み行く
若きらへ思いを繋ぐ、折口信夫会
 
平成のこどもを守る 思想の声が
ようやくに立ち上がるかもしれない、国家
 
先生が言っていたこと、口癖だった
山河あり国破れて、と先生方は
 
長い名だ。福島原発暴発阻止
行動隊応援隊 国家チームとして
 
三月の十一日の メルトダウンを
二ヶ月後、五月十四日に認めましたか
 
日本からバッドニューズが…… 一号機、あれは
炉心溶融でしたと、きみのブルガリア
 
三月の十三日の 河北新報
これは炉心溶融であると、新聞記事に
 
三号機の「臨界事故」を東電さんが
しぶしぶに認める時は 来るのかしらん
 
怒りもて 藤井先生、ついに倒れる
といううわさ 湧くときになお怒号 藤井が
 
混迷の私立大学。それもよし 五月
からはじまる二〇一一年を、いとしく思え
 
高放射能が校舎を襲う まぼろし
累々と、学生の衣類がうずたかく積む
 
花づなの海岸の国、した行く地震
氏はすでに見ていた。神戸そして淡路原発  (石橋克彦氏)
 
引用し、思い起こせと、峠三吉を、
高木仁三郎うしの遺した ことば  (『原発事故はなぜくりかえすのか』岩波新書)
 
秋田県で測った、一九八六年の空
肥田先生 鎌仲さんのことばをいまへ  (『内部被曝の脅威』ちくま新書)
 
ふつふつと記事澄み通る、週刊金曜日
高木あり、石橋、鎌田、「必ず起きる」と

旋頭歌(せどうか)、577577です。
2011・5・27夜~28朝

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「作品 2011年6月3日号」の記事

  

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