不壊府   野村喜和夫


不壊府   野村喜和夫

不壊府のことはわたくしに 
色濃く残ってわたくしの発祥の地もそこ 
わたくしの一人で腑絵浮は分化し 
ほかに比べるもののないほど美しかった 
鳥の洩れがある 
そう鳥の洩れがあり 
ふおん川を上ったり下ったり 
それがこがねの波紋となってひとつになろうとしていた 
のだし掛けられた網のむこうに 
いくつもの舟のまぼろしが 
死が 
朝もやに掬いとられたようであった 
牛の冷えがある 
そう牛の冷えがあり 
浮餌麩のきりさめ 
ちおん沼の夕ぐれ 
バックまあ森に石でつくる家 
天安松水天湖バックまあ石でつくるカインニン橋 
ふっくらの女ひとがみている 
いついつつの鳳凰の楼 
のみさき宇宙平和 
力の香る炉ざろんざろん碑 
水のうえほあカイン殿ぶータイン門 
ぞっくどっく王様のお墓どんかん 
どんかん碑 
それからそれとも色紙をふくざつに折り 
なかに蠟燭をともして 
あおみどろの金属の川に浮かべるのであった 
朝の祈りは玄空時に 
バオクォーク坊に 
お祭りは舟を橋にあげて陸にあげて 
お祭りの旗は語られざる言葉の鎖のように 
それからまた川に灯籠を流して 
出来事のあおみどろをたたえるのであった 
うおん府らっくティン府 
アンひえん庭園 
息のパセリがある 
そう息のパセリがあり 
ふっくらの女ひとが座って 
珈琲セットの寿の字さざなみ石灰ポート 
ほら丘に市場の夜のさかな 
さざれた三角ほとのこみち 
お母さんは道にたたずみ 
おぐらい門に入ろうとしている 
でなければわたくしのパテわたくしの葉で包む 
不壊府の真知まち 
そこに留まろうかそこから出て行こうか 
たこの芸術家ヴァンベーン様 
鷲とさらわれる皇女のたこ 
不壊府たこのために 
ふおん川を少女たちが小舟を漕いで渡ってゆき 
水面に浮かぶ笹の葉のように 
最後のよぎり 
たぎりを乗せ 
ふおん川を上ったり下ったり 
それがこがねの波紋となってひとつになろうとしていた

作者紹介

  • 野村喜和夫(のむら・きわお)

詩人。1951年埼玉県生まれ。早大文学部卒。

戦後世代を代表する詩人の一人として現代詩の先端を走りつづけるとともに、小説、批評、翻訳、朗読パフォーマンスなども手がける。

詩集『川萎え』『反復彷徨』『特性のない陽のもとに』(歴程新鋭賞)『現代詩文庫・野村喜和夫詩集』『風の配分』(高見順賞)『ニューインスピレーション』(現代詩花椿賞)『街の衣のいちまい下の虹は蛇だ』『スペクタクル』、『ZORO』、評論『ランボー・横断する詩学』『散文センター』『21世紀ポエジー計画』『金子光晴を読もう』『現代詩作マニュアル』『オルフェウス的主題』、CD『UTUTU/独歩住居跡の方へ』など多数。

1993年詩集『特性のない陽のもとに』で歴程新鋭賞受賞、2000年『風の配分』で高見順賞受賞、2003年『ニューインスピレーション』で現代詩花椿賞受賞。

2012年『萩原朔太郎』『移動と律動と眩暈と』で鮎川信夫賞受賞。

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「作品2012年3月9日号」の記事

  

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