万波女神 安井浩司
春天心行ける一人の継梯子
幻日へ扉のひらかる化粧仏
夕べ蛇抱く名婦と思わんや
日や風や上から燃やして乞食鍋
バルサの筏女神立ち来る春の海
万波の女神のつもり海かぶろ
天童山の枝に躍れる穿山甲さん
故山中智恵子さんに
北風に干し人を突き刺す筆とすか
天の狼冬のかけじく駆けくだる
天地玄黄筆に濁酒をふくませて
執筆者紹介
安井浩司(やすい・こうじ)
俳人。1936年、秋田県生まれ。
18歳で上京、寺山修司編集の十代俳句研究誌「牧羊神」に参加。1959年、永田耕衣主宰「琴座」同人。1964年、髙柳重信の「俳句評論」に参加。
現在、『青年経』から『句篇』までの13句集を収めた『増補 安井浩司全句集』(沖積舎)が入手可能。それ以後の句集として『山毛欅林と創造』(沖積舎)、『空なる芭蕉』(同)がある。評論集に『もどき招魂』『聲前一句』『海辺のアポリア』。秋田市在住。