あかるくてすこしさようなら 柳谷あゆみ
バスに乗るとひとつの世界が現れる窓の向こうで手を振っている
音消えてわずかに時が遅くなる 女の人が国道を行く
ステップから両足そろえ飛び込めばガラス戸閉じて去っていくバス
降雨量目安に<息苦しくなる>と振りあおぐ空に雲たちあがる
昼寝して熱い 腕ばかりながながと伸ばして膝の裏の汗ぬぐう
起きあがり二つの窓を目の先に据える あかるくてすこしさようなら
見覚えのない街に立つ先生にLike!Like!Like!とみんな書き込む
うつくしい円周を描くまん中の針穴のような街で会いましょう
「フェスティバルまで十四日」看板の下に散らばるフラワーの残り
雨つぶに含まれる砂や葉や枝に生まれたときのかすかな匂い
ピッツァにはなんか夏野菜のせられて届かぬ力で満ち足りていた
身の奥に棲まう眩暈を鎮めつつはたらくための新たな眼鏡
外国へはばたけわたしの本 愛は伝達されることしかしない
国を出たわたしが送る国を出た人だけに届く五千円札
みんなやさしいから大きなこの窓があるのにたまに吹き飛ばされそう
作者紹介
- 柳谷あゆみ(やなぎや あゆみ)
「かばん」所属。第一歌集『ダマスカスへ行く 前・後・途中』(六花書林、2012年)。同歌集にて第五回日本短歌協会賞。
詩歌関連の著作にḤassan ʻAbbās (tr.), Ayumi Yanagiya (ed.), Riḥla maʻa al-Haiku(Damascus: Dār Alif lil-dirāsāt wa al-nashr, 2008)及び、しおたまこ&柳谷あゆみ『人生の大太鼓』(展覧会記念冊子、2009年)。