Ecce homo
大口玲子
この世は、イエス・キリストの体に激しく襲いかかるが、
キリストは、苦しめられながらもこの世の罪を許す。
Dietrich Bonhoeffer
光撒くやうにおがくづをこぼしつつ木を切る人の孤独鋭し
天職といふものつひに無きわれか花冷えにくしやみして水を飲む
どうか目をそらしてほしい 桜蕊踏み大股で歩みくるひと
葉桜といふには早き樹下に立ち背筋をのばす斉唱はせず
朗読に酔ふまじみひらけるわれに最初の言葉としてきみが立つ
はなびらが桜を離れ地に落つるまでの歓喜よ人に知らゆな
見ることすなはち暴力としてわれは見む今年誰にも見られぬ桜
説教はわが耳を楽しませるなくただに未踏の境地へと運ぶ
天国に一瞬ふれたる指先は水辺にてわが名叫ばれしとき
他の誰とも違ふ方法でわれを見るその人をわがうちに得たかりき
作者紹介
- 大口玲子(おおぐち りょうこ)
1969年、東京生まれ。「心の花」所属。歌集に『海量(ハイリャン)』、『東北』、『ひたかみ』、『トリサンナイタ』。他に、『セレクション歌人 大口玲子集』がある。宮崎市在住。