鈴木しづ子さんに捧ぐ 鳥居
すると不思議なことに彼女の足は勝手に踊り続ける。
夜も昼も彼女は踊り続けなくてはならなかった。
彼女が看病しなかった為に老婦人は亡くなり、
またその葬儀にも出席できず、身も心も疲れ果てた。
呪いを免れるために首斬り役人に依頼して
両足首を切断してもらうことにした。
切り離された両足と赤い靴は彼女を置いて
踊りながら遠くへ去っていってしまった。
(アンデルセン「赤い靴」あらすじ)
履いたきり脱げなくなつたと笑ひけり踊り子たちの冷たい裸
ラベンダー遺品となりし枯野にて病みゆく母の怒鳴る声抱く
待ち受けの(旦那と子ども)を見やる人 緞帳(どんちょう)あがりポールに絡まる
姉さんは煙草を咥へ笑ひたくない時だつて笑へとふかす
ねつとりと膣口色に照らされて練習どほり ゆつくりと脱ぐ
学校で過労と診断されし夕 灯りの点かぬ家で本よむ
母の日の花屋は赤く染まりをりショーウインドウにふれる指先
踊りつつ太宰を浮かべ笑ふとき観客からの手拍子生まる
空しかない校舎の屋上ただよひて私の生きる意味はわからず
慰めに「勉強など」と人は言ふ その勉強がしたかつたのです
作者紹介
- 鳥居(とりい)
小学校中退。 孤児院生活や ホームレスを経験。
DVシェルター避難中に 短歌に出会う。
義務教育を受けられずに、困っている人たちがいる。という問題を世間に伝えるために セーラー服を着用している。
ブログ http://toriitorii.exblog.jp/20655550/
2012年、第41回全国短歌大会(現代歌人協会主催)佳作 穂村弘選
2013年、第3回路上文学賞(星野智幸選)大賞