秋に消えゆくもの、冬に留まるもの 五十子尚夏
しなやかに鞭振るいつつ
ビンラディンの息子死せりと報じらるる長月の未だ暑き
すれ違いざまに男は香港と空咳ひとつ溢してゆきぬ
何某が失脚せりと伝えゆく風に横隔膜は揺れおり
曼殊沙華の最も紅きあのあたりを秘書室秘書課と名づけて去りつ
冬の夢が朝の眉間に残るごとくスイスフランという通貨あり
ラスコーリニコフと名付けられし夜の約束手形が不渡りとなる
水平線をかすめるような七並べ後にも先にもこの一度だけ
小樽、とあなたが告げるその街に十七の僕が雪を降らせる
背に腹は代えられぬからこの胸に銀のアジトを抱きつつゆく