構築から探検へ散文のための韻律    中家菜津子

  • 投稿日:2019年06月02日
  • カテゴリー:, 短歌

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構築から探検へ散文のための韻律    中家菜津子

  ⅰ 国立西洋美術館 ル・コルビュジエ展
コルビュジエのつくった箱の中に居てコルビュジエの画を眺めるひとたち
陽の光とりいれるはずだった窓 昼白色に絵は照らされる
ピュリスムの黄金律で描かれた画 韻律だって数学的だ
「数学は探検するもの」階段でレイモン・クノーの言葉を憶う
    東の野に炎の立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ  万葉集
西の空見えないけれど高層のビルのあらゆる硝子はゆうやけ

  ⅱ 国立新美術館 ウィーン・モダン展
    エミーリエ
傑作に気に入らないと言えるひと その眼差しに向って歩く
螺鈿細工の市長の椅子から遠くないところにあったヒトラーの影
醜さの美というけれど醜いと感じるうちはほんとうじゃない
屋外のエゴン・シーレのポスターの指の隙間にのびてゆく蔓

  ⅲ 東京都美術館 クリムト展 
女とは老いれば嘆くそうですかそこまでですか金の縁取り
クリムトの素描の方がクリムトに近い気がして魅きつけられる
伝えてはならないことを残したい かすかかすかな線だ、わかるよ
寝転べば上野の森は青空と樹だけでできた森、ほんとうに

  ⅳ 制作 
パソコンに向かって詩を書く人の指 蜻蛉のように頬にとまった
[kɑtə’ːrn] 壊れたピアノの音をさせ迷い子になる詩を打つ指は
    構築するものから探検するものへ偶然として紫陽花が咲く
雨の降るまえの匂いをかぎながら紫陽花、なずき、雲、浮かぶ道

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