連載第7回 川辺にて 亜久津 歩

連載第7回
川辺にて
亜久津 歩

1 堤
ひとり川辺を歩く。よいことを言おうとするのをやめた。この
道をたった二十四キロ歩くだけで海へ辿り着けるらしい。煙草
をやめた。眺めているだけでいいと思えなかった。足が歩いて
くれるうちは誰かに託してしまいたくない。
川辺を歩く。「一度きりの人生」などというべとついた七文字が
妙に光り始めた。徐々に死んでいるのがわかる。ずいぶん我慢
してきたのだから、もう邪魔されたくない。わたしにも。死ね
とまでは言わないが、ただ遠くにいてほしい。まだ息があって
よかった。弱い地盤に佇む廃墟のような校舎の窓、白旗めいた
カーテンが日を浴びて揺れている。
鴉を読点に、前触れなく歩けなくなった朝を思い出す。終わる
のだ。初めて作った詩は「翼をください」の出涸らしだったが、
「私は飛べない」と繰り返されていた。その続き、干からびた
蚓だらけの小径を歩く。氾濫原の見慣れた亡骸。辿り着こうと
するのをやめた。あらゆる伏線を残したまま終わるのだから。
歩けるだけ歩く。それがとても楽しい。

2 泥
そっちはどう?
なんて 言えたこともないのに
どうしても届かないから
書ける手紙がある

さらさらと時は流れて
初夏の空がばかみたいにきれい
ただ 浚っても浚っても泥

可笑しいね
あなたを許した人たちは
あなたを思い出さない
無様だね
あなたもわたしも

憎まれて よかったね

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