第10回詩歌トライアスロン 選外佳作⑥

第10回詩歌トライアスロン 選外佳作⑥

三詩型鼎立作品

短歌「生き延びる」俳句「充電」自由詩「未来」 佐復桂

短歌「生き延びる」

この歌を知っているかと聞かれおり90年代ミリオンセラーの
懐かしがられる側にいつの間にかなっているのを感じていたり
化粧品の五桁の番号送信す韓国へ行く姪のLINEに
かまびすしくヘリコプターの飛来せり韓国大統領の来日
頬に風受けて産毛があることを感じていたりマスクを外し
コンビニのコーヒー持ちて昼休みペタペタ歩く堀端沿いを
バリバリでもゆるゆるでもない仕事自分一人が生きるくらいの
新卒時の同期が子へと向ける顔私にはない親という顔
職業の前につかない身軽さを知れるだろうか女という字
巻き肩で紛うかたなき猫背かな革の鞄が日に日に重く

俳句「充電」

霾や薬局の扉の半開き
彼岸西風桜でんぶが蓋の裏
馬の子の寝藁食みつつ寝てをりぬ
充電の心もとなく愛鳥日
自虐つぽく不意に冷蔵庫が鳴る
日曜や冷やし中華のタレを濃く
大腸のピンクあざやか秋日和
闇汁に皆佳きものを持ち寄りぬ
沢庵に飯の温度の甘みかな
反撃のやうな相づち冬薔薇

自由詩「未来」

受付で参加費を払うときに小銭がなくてお釣りをもらった
受付にいた人は両手を添えてお釣りをくれた
何回も参加しているけれど初めて見る顔だった
「みきです。未来と書いてみきと言います。」
みらいと書いてみきという
まったく同じ説明を受けたことがある
読み方は「みく」だったからまったく同じではないか
でも 字は同じ
未来
自分の手でその字を閉じた人
こんにちは 未来さん 

短歌「□」俳句「〇」自由詩「△」 池田宏陸

短歌「□」

線 発光 アンプリファイヤー 眠すぎて逆に目が覚めてきた
地上 吊革の遠心力 B♭aug(ビーフラットオーギュメント) 摩耗する
通過する 何度も聞いているのに歌詞を知らない 歪んだ 靴紐
雨模様 ノイズキャンセリングヘッドホン 仕組み 思い出したくない
強い 折り畳み傘が裏返る 両A面 新宿南口
心臓 夜の匂いがする 確かに ライブハウスのコインロッカー
マイナスの螺子 すずしい 電子音楽 落ちても大丈夫な高さ
証明写真機 オートチューン 青信号が点滅する 分かった
押入れにストラトキャスター 無線キーボード 偏頭痛 また明日
リミックスアルバム 定点カメラの映像 交わる 電気を消す

俳句「〇」

かはたれのさくらにほねとにくすこし
さくらほほゑめばみづぎはくるひだす
いうかいをしづめてさくらあふれさう
すいてんにれいみたされてさくらなぐ
ふうさうのあかるさをささやくさくら
さくらなだれてむげんまでかぞへれば
はなたれてめいわうせいへさくらのほ
そらいろにさくらとはやくかけばうそ
よみがへるたびさくらとはかがやくむ
われをあみながらさくらはうらごゑに

自由詩「△」

一瞬、
痛みを、
忘れても、

忘れても、
一瞬、
痛みを、

痛みを、
忘れても、
一瞬、

ネバーランド 柊月めぐみ

短歌「夏への郷愁」

夢ありて時を跨いで降り立ちぬ故郷をはらうディーゼルのかほり
たまゆらの世界はにわかに色づきぬ逢い見し友は親善大使
ほんたうにこれがタクシー懐かしきくるくるハンドル黄色のワーゲン
濡れそぼつ煉瓦踏みしむフリースに雲垂れ込めたる梅雨空に似て
極北に熱波来たるらし雲はいづこ祈雨よりほかに為すすべもなし
基層かなステンドグラス見あぐねて君は問ふなり我を見やりて
灼熱のクラシックショコラ黒く照り陽もまた涼し式服の群れ
飴色にあたたかき階段軋むソネット全集ウィリアムの笑み
眺むれば秋は来ぬとぞ告げにしか旅立ちの刻朝焼けの空
薄雲の寄越したる風夏を捨つサンダルひとつ置き去りにして

俳句「冬への望郷」

雪原の空にひらけり冬花火
野茨の生い茂りたる貸家かな
冬薔薇霜降る石の燈火たれ
早馬は過ぎにし日々の一人旅
ヒーターを確かめる手のあたたかき
ふくらすずめ重たきダウン被せられ
秘めやかにすずらん纏う春の宵
鼻母音の残響まねぶ鼻濁音
カレー鍋囲む同人雪見酒
縁とて奏でそ不協箱ピアノ

自由詩「禁色の里」

守り人たちの住む田舎町には時計塔があった。天井の低
い平坦な家並みは皆小さく、何処からでもよく見ること
ができた。旅人が見上げるとき、時計は決まって十二時
を指していたが、反時計回りに回り続けることもあると
いう。町でただ一つの時計は壊れているらしく、人々は
一向気にもとめないのだった。

荒れた谷筋は用水路かに見えたが掘り下げられた廃線跡
だった。この町に電車が来なくなってずいぶんになる。
雑草に覆われたレールは自然に還ることを拒みながら、
時の経過に埋もれつつあった。捨て置かれたトロッコが
朽ちていく横で塗り直したポストだけが美しい姿で時を
動かしていた。

炎天下の酔狂に領主の館まで歩く。強炭酸水だけが頼り
の夏の日、小麦畑はどこまでも小麦畑だった。仕留めた
獲物の首が迎える応接間は迷宮の入り口。地下の食堂に
は銀の食器が収められ、そこだけひんやりとした空間に
解説を試みる男がいた。耳を傾ける者が現れると嬉々と
して語りやまない彼は、いつかの城主に違いなかった。

春は色と香に溢れる。庭園も民家も隔てなく。クリーム
イエローの薔薇は吸い移した幼い日差しのように恥じら
いながら咲き誇る。
夏の熱狂を煽る野外劇場。いつかモノラルテープで聴い
たあの曲もこの曲も、ピクニックの歓声が迎える長い夕
日の落ちぬ夜。
秋がさそうサフラン摘み。彼女の乗る白馬を染め上げる
ための。滴るような収穫は淡くとけ暮れ夕焼けを黄櫨染
にする。
冬は白く湿った空が懐かしい夏を思わせる。あべこべの
季節にあがる一つきりの花火。薄黄の石灰岩がざらざら
と伝える歴史を紅い蔦が縁取る。

守り人たちの住む田舎町には時計塔があった。天井の低
い平坦な家並みは皆小さく、何処からでもよく見ること
ができた。旅人が見上げるとき、時計は決まって十二時
を指していたが、反時計回りに回り続けることもあると
いう。町でただ一つの時計は壊れているらしく、人々は
一向気にもとめないのだった。

※掲載はレイアウトの関係で、実際いただいた原稿とは若干異なっている部分があります。ご了承ください。

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