第7回詩歌トライアスロン三詩型鼎立連載 ひとがたのからだ 未補

ひとがたのからだ
未補

とてもよくはれていたので
手頃な水に落ちてみた
するとひとつの珪藻に
いくつもの観覧車があった
観覧車ごしに見上げる空は
宇宙とは呼べないけれど
それがまるで世界のすべてであるように
あらゆる営みを
いろどってしまう

目をのがれた花が
遺失物として
とどけられる岸で
知っている魚の名前を
挙げてみると
見知ったはずの食器が
ひとくちの
ユニゾンを
のこして
すべて割れた
(こなごなより、もっと)

途方もない時間をかけて
息継ぎのためにうかぶ
密室のなかで
あるものは歌い
あるものは黙し
わたしたちはその
どちらともつかない
私語を交わす
たとえば空のペットボトルを
紫陽花に喩えたり
その反対に
欠けたことのない指の
あたらしさを
確かめたりする

そうこうしているうちに
時を降らせる水が
肺に満ちて
あらゆる声の
わずかばかりの
美しさが
ひとがたの微笑みになる

「この世でいちばんうつくしいまばたきをあげたいのにこの世でいちばんうつくしいまばたきにはまぶたがないの容れ物ばかりがあって仕舞うものがないの。」

さあ、と息を吐いて
陸をゆく目と
空をゆく耳が
標識をまじわり
これから話すことを
すっかり波紋にして
どこへでもいけるからだで
さあ、と息を吸って

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