





第11回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門奨励賞
短歌「ロータリー」俳句「聖地巡礼」自由詩「5W」
仲原 佳
短歌「ロータリー」
Rainy Days And Mondays 痛み止め一錠ほどの痛みを胸に
この夏もどこかの夏に繋がってデジャビュのような明るさだった
みんなみんな忘れてしまう駅前の酸の匂いのするロータリー
夏時間 ぼくとあなたの間にはどうしようもない流れのはやさ
ジェネリック夏の匂いだ電波塔どれだけ近づいても着かなくて
惑星が逆回転をし始めて私の番で鳴らぬPayPay
顔のない人に言われる「ありがとう」土星のドライブスルー空いてる
ひどく月の欠けてる夜だフィクションもノンフィクションもオチが見えない
ひかり、とくに銀のひかりが足りてない新月、無人の踏切を渡る
雨降って固まらない血 返信のない朝の月 短い呼吸
俳句「聖地巡礼」
皇紀二万一年宇宙の旅や不如帰
風光るミャクミャク様の繁殖期
孕み鹿増えすぎたから減らします
紫陽花やジャンルで言うとセカイ系
ワタシからタコへと至る進化論
唯心論者のボーカロイドやカフカの忌
夏祭り死の商人の売るクッキー
鳥渡る祈り溜めする回教徒
ででむしやイヴの肋骨よりアダム
野分跡ドリーの聖地巡礼へ
自由詩「5W」
ある朝、・・・When
グレゴール・ザムザが・・・Who
気がかりな夢から目ざめたとき、・・・When
自分がベッドの上で・・・Where
一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。・・・What
※1
ある冬の夜、私は山で迷っていた
ある冬の夜、山が私を迷わせていた
深い白に包まれた山
キツネもリスもウサギもシカも
てんでばらばらの方向へ
走り始めた
Whyのない物語
私は誰についていけばよいのか分からず
そのうち――雪が足跡を覆い隠してしまう
或日の暮方の事である。・・・When
一人の下人が、・・・Who
羅生門の下で・・・Where
雨やみを待っていた。・・・What
※2
初めて覚えた言葉は
” water”じゃなかったけれど
水音を頼りに
手探りで探す心臓
生まれる前に聞いた音と
死の直後に聞く音は
相似なのです
あと記憶にあるのは
風の感触、、、
彼は老いていた。・・・Who
小さな船でメキシコ湾流に漕ぎ出し、・・・Where
独りで漁をしていた。・・・What
一匹も釣れない日が、既に八四日も続いていた。・・・When
※3
自動詞の鳥を追っているうちに、他動詞の島に辿り着いた
モールスが初めて送った信号は
“What hath God wrought(神のなせし業)”
私はなんと打つべきか
助けを呼ぶべきなのに、
打つべき言葉が、
――言葉が、
思い浮かばない
そうこうしていると
訪れる青い夜
死のうと思っていた。・・・What
※4
ゆくゆくは
時間も場所も
理屈も動機も
五感も人格も失う
言葉のいらない世界で
言葉を交わすようになる
塔の崩落
島の沈没
合理性を捨てた先に初めて現れるものがある
knifeのkような
真に必要なのは問いだった
視覚も聴覚も嗅覚もない部屋で
風だけを感じ続ける
右の手を開けば
細胞の動きが分かる
私が細胞を動かし
細胞が私を動かす
右の掌に
風だけが
風だけが
※1 フランツ・カフカ(1960)『変身』青空文庫,https://www.aozora.gr.jp/cards/001235/files/49866_41897.html (アクセス日:2025/4/9)
※2 芥川龍之介(1986)『羅生門』青空文庫,https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/127_15260.html (アクセス日:2025/4/9)
※3 Ernest Hemingway (1952) THE OLD MAN AND THE SEA. London: Jonathan Cape.青空文庫,https://www.aozora.gr.jp/cards/001847/files/57347_57224.html (アクセス日:2025/4/9)
※4 太宰治(1947)『葉』青空文庫,https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2288_33104.html (アクセス日:2025/4/9)