結晶   横山黒鍵

01212

結晶   横山黒鍵

途切れる音声にあわせて
月を浮かべたスープを
ひらり
口に運んだ

「うたのないせかいへいきたい」
「とても乾燥した地帯です」
「馬鈴薯の皮を」
「丁寧に粗熱をとり」
「千切りにしたビーツを大量に投入して」
「血ですか」
「父です」
「ふたつぶら下がるこの重量の」
相似形が月でした

「うたうたいが」
「湯屋で湯を」
「ことほぎの骨を拾う」

なつかしい道だった。泥の色さえ。
降り続く雪は この詩が途切れるまで 
きっと やんでいてくれる

送る、
橄欖の葉が青々としていて
道に無数に植えられている
「通れませんね」
その通り、手にスコップを持って
鍋が煮えるまでの時間に
曇らせる眼鏡の弦に花弁雪はなびらゆき
掘り起こす
「盗掘された野辺で燃やされたの」
「天高く煙があがって」
「袖に塩を振る」
無縁が空を汚します。

幻視されたゆくすえの
はなをうたえば
「うたのないせかいにいきたい」
「ちいさなせかい」
「2回目はとなりで手を握って」
「せかいじゅうどこだって」
「わらいありなみだあり」
垂雪しずりゆきあしをとられる葬送車ブラックパレード
アラームは午前5時を知らせてくれる
千切りにする、橄欖
千切りにする、ビーツ
千切りにする、馬鈴薯
千切りにする、人参
千切りにする、父
千切りにする、
千切りを手軽に行える「にんじんしりしり器」は
写真の中で絵画のように咲いた微笑みの
点描、沖縄のお土産でしたね

鍋がちんちんとなっている

粒雪ざらめゆきあなたは甘いと笑われて
頬をなめた、毒で
「タオルをわすれました」
「うたをわすれました」
「石鹸を煮込みます」
「透明な」
「身体の内側から美人になれる」
「天花粉を打てば風邪をひきません」
「あぶくぶくぶく」
スマートフォンのガラスが割れる
沢山の、ゆき日々からこぼれてく
霧雪きりゆきにとむらいのコール紛れてく

てくてく沸騰させると、濁ります

飼っていない犬にほねを投げる
「おなじモティーフね」
「こうかはばつぐんだ」
「飛躍は翅が生えてから」
「こうかはばつぐんだ」
「陳腐化された豆乳」
「こうかはばつぐんだ」
「父です」
「こうかはばつぐんだ」
「与えられない黒い乳」
「窓から差し込む光を」
「浮かべて」
もうなにも残っていないほど
煮崩れて

味噌のはいっていない味噌汁をすする
ビーツのはいっていないボルシチをすする
うたのろいのないせかいにいきたい
灰雪はいゆきに隠れる月の丸みかな

しりしりひりひり
いたみ、のひかりうつわ
降るしずむいのり
溶けゆくほどける 温度ゆくえ
スープなじうごきだすませいま
BTビジートーン
ひらり
口に運んだ

※作中「せかいじゅうどこだって」「わらいありなみだあり」は
 「It’s a small world」(若谷和子訳)より引用

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