



第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門奨励賞受賞連載第1回
影を抱いて
川上 真央
前奏のハミング長し秋ついり
駅までを漕ぐ
ペダルのつめたさが
ゆっくりと身体を蝕むのがわかる
もうしわけ程度に覗かせた指先は
すれ違う斜陽の鋭さに耐えきれず
じっと息を潜めている
今日の原稿は
前籠の鞄に
ぴんと背筋を伸ばして
風をはじく
はじく
膨らむばかりの影を裂きつつ
どんなふうに話していたか起き抜けのようにリズムが思い出せない
環状線は唸りをあげて人間は冥のきよさに吠えられないの
病み上がりの喉をひらけば
いつもより一層ふかい曇り空を破って
うたが
あふれる
震えながら、掠れながら、壊れながら
清音が続く違和感みみず鳴く
朗読の声をひきだす胸底にひろがる影の水鏡がある
わたしには出せない声と思うとき役のセリフに多いひらがな
あたたかな部屋に
それぞれの声が混ざり合う
ましろい世界に
わたしの音が
呑まれゆく
それでも何度も
何度も音を送り出す
そのうちそれは影を抱いて
小さな命を孕むのだ
草の穂は声なきものへ向くマイク
原稿の角ゆるやかに丸まって雨やみのごと指をさしこむ
深呼吸すれば身体は開かれてわたしは音に包まれている
水切りの石はひかりの記憶抱きひかりの記憶をふやす川底
しんと静まれば
わたしはひとり水面の淵に立っている
すうと息を吸って
わたしの声の笹舟を
押し出す
それは震えながら、掠れながら、
やわらかく
ほどけていった
秋宵にジョバンニの声よく響く







