







第11回詩歌トライアスロン三詩型融合部門受賞連載第2回
夢の話をしましょうよ
畳川 鷺々
りょりょく、って声にだしたら逃げてゆくみどりの風船 足のふくらみ
音程の追えない息のきれる場所 夢の話をそこで待ってる
なにもかも忘れたきみにひとつずつスーパースティション植えてあげるね
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「非、生産的すぎる、」とあなたは言った。
ひ、と、せいさんてき、のあいだにいやらしい間をあけて言ったのだった。そうだろうか。わたしとあなたとの隙間に、さらさらとフィルムは流れ続けて、身動きができないのはわたしではなくて、きっとあなたのほうだ。
ほら、夢の話をしましょうよ。
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天高し素敵なベッドメイキング
鈍色のゆめやうつつを鳥渡る
アラームの予感の風や星月夜
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夜中にわたしを起こしたのは、最新型の冷蔵庫だった。そう、わたしは夢をみていた。最新型も唸るのだな。いい夢も悪夢に変えてしまう、そんな力を持ったその唸り声は不定期連載でひとつのストーリーを紡いでいる。
// / / /夏の夜、フリードリヒは花火を見て怯えた。戦争を思い出すのだ、と言った。わたしが、あんな鮮やかなのか戦争というものはと聞くと、うつくしいから鮮やかだから恐ろしいんだ、とフリードリヒはそうは言わずに唸っているだけだったが、フリードリヒがそう思っていたのは明らかだった。それは花火が弾けたときに、「戦争はうつくしいから恐ろしい」と出来損ないの川柳みたいなものが、夜空に火の粉で画かれたためである。他にも「ぶたじるかとんじるなのかどっちだよ」、「鶏ねぎま別の時空をゆく君よ」、「マンションをここに建てるな迷惑だ」などと次々に夜空に浮かび、そのたびにフリードリヒは唸り声をあげ、蹲るのだった// / / /
いつでもつめたく苦悶しているのだから、そんな世界を投げつけられたわたしはたまったものじゃない。聞かせてくれてありがとう。でも、両側から扉を開けられるようになったことを誇る前に、自動で氷を生成できることを喧伝する前に、もっと幸せに生きることを考えたほうがよいのではないだろうか。といって、相手は冷蔵庫なので時々おおげさに唸ったりはするものの、内容物をただただ冷やしつづけるだけなのだった。
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電線を鳥がたわめて一瞬のとても理想的な平行四辺空
正直に育ってくれて嬉しいよ そなたに神滅剣を授ける
轟音で前がみえない不知火のホワイトノイズは泣けるささやき
おっぱいはまだこれからよ楓ちゃんボタン弾けて飛ぶってあほかい
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あのさあのさ、ベッドに横たわっているのにどこまでも落ちてゆくような感覚があって、あ、べろべろに酔ってるとき、ってそれだけじゃなくてね、え、それって夢ってこと?
わたしがいままで書き連ねてきた文章と、書かれなかったなにかと触れてきたすべての引用の世界を混ぜあわせるようにして、生成される夢のような、見たことも聞いたこともないことがつぎつぎと押し寄せてそれが何のメタファーにもなっていないときにさ、敏腕編集者に削られてしまいそうなそれはさ、それはなんだかとてもうつくしいと思わない?
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秋の森 とけてバターになるまえに語尾に「だっちゃ」とつけて詰って
1、2、3 圧縮された 8、9、10 心臓が鳴る エフェクトは切れ
月の町 俺は加害者ではなくてあくまで被疑者だ あにみてんだら
ねばついて破れかけてる糊代を伸び代とする眼窩のシャドウ
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終わりは、きっと崩壊や惨事ではなく日常のなかにあるので、仰々しいオノマトペは似合わないのだろう。しゃらしゃらと風が吹いていて、サッカーボールがとーーーーん、と跳ね上がった。チャイムが鳴り終わらない。それでも、いつもどおりに空のグラデーションが彩度を落としてゆく、酸素がうすくなって、今日の一番星はとても小さい。チャイムはすこしずつピッチを落として、もう何の音だかわからない。その音をなんと書き記していいかわからない。わたしは、窓を割って、弱い光を凝視する。
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遠鳴りのほそくやさしき鳥威し
冬隣鐘楼の折れそうにいる
秋の蝶ゆめやうつつをとびまどう







