連載第10回 ダ調 横山 黒鍵

連載第10回
ダ調
横山 黒鍵

一条のしろい線が走る
それは舞台の上だったり水の中だったり
取り止めもなくどこにでもあり
郵便局への道はこちらですか
誰かに尋ねられたりする

眼鏡をなくした眼球のように
緞帳のない板の上に立ち
睥睨するのだ
やんごとなき細い目を尖らせて
したの上にもしたの下にも
ことばのサーカスを宿し
くんくんとはなを鳴らしてから
撃つな、と呼びかける

塩ばかり舐めていたのは
きっと誰よりも涙を流したからなのだ
足りない塩分を補って
階段から転がり落ちた夜は
笑っていたけれど
柔らかいみずのそのやわらかさを
静かに見繕ったりして
そうして賑やかなよるも
さびしいよるも
だれかによりそいながら
しろい線は歩いていた

今夜もまた板に上がる

その線がどこから来たのか
どこへ帰るのか
誰も 知らない

コーヒーのひじゅう
暑い日が続きましたが
いかがですか と
ひなが すると
とんでもないはねだわねと
わらわれていたのだった
わらうほほのすずしさにぬかづき
ストロベリースムージーが
ずずとあせをかいて
すこしニキビのういたえがおを
てれくさくかいた
つきがでてくる前に
しずむなんてそんな
おもさは知らなかったから
おまえはまえがみで鈴虫の音を
切り取るのだった
コーヒーの一滴いってき
落ちる音がよるを掘削して
そこになにが埋まっているのか
たのしみなはねのきせつだった

いきているのがふしぎなはなしで
みどりの眼鏡しか
与えられなかったのだった
ゆうひが
ひにひにのびてきて
それがまるで道にみえるから
手をとってつれていっておくれ
ふうふうと
あついものをさますように
どこかで
だれかのうらみをかって
海はしおからく鳴るのだった
それでも
おまえはそだったのだね
すれちがったけだもの
においを嗅いで思い出す
おまえは海の草原をゆく
だれかが言ったのだった
砂についた風紋に
あしあとをのこすものよ
ここには

かむとして噛まれたことば
毒水を耳に注がれて
父はなくなったと
そうきいた
客船は出発の際に
大きく汽笛をふいて
鍵のかからない部屋にそっと
姉をまつおとうとの夢
どこへいってきたの
そう繕い物をしながら
めを向ける
戦争があってね
昔はなしのように語れない
歯の隙間を木枯らしが
抜けていくようで
植林の頼りなさを
まてない大人になった
船倉にはたくさんの小麦が積まれていて
ネズミ達がイタチの話をしている
どこかとおくへとはいうものの
吹き抜けには無数のガラス
道に迷いましたな
そうですな
バイオリン弾きは
晩餐のおおきなひかりを抱いて
コンサートに遅刻する
ひかりを失うかもめたち
海の上に一本の線をひきながら
鍵のない船室へと
おとうとは静かにかえっていく

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