


Perceptual Latency
中家 菜津子
ひさかたの夏の光にはガラス片が混じっていて
君の眼についた無数の細かな傷が
日焼け止めジェルの白い濁りや
水羊羹の縁の翳りを求めて彷徨っていたのも
ぬばたまの宙の彼方に記憶されてる
だけどただ何度も思い出したことだけが思い出になれるの
五月雨のポストの前で何もかも抱える腕に傘差しかけた
エクセルに半角全角混ざりあい歪なわたしのこれは輪郭
眉を描きおしろいたたく手鏡はぎりしあの密儀のあきらめめいて
王子駅
車窓にはうすむらさきがながれゆきかすかにおくれ紫陽花になる
龍彦の新札刷られる世界線ならよかったね お砂糖ふたつ
小麦(パン)もレンブラント(****画****)とネオリベ(ゲームボード)のせられた♢♧♡♤兵の首をお刎ねよ
飛行機が雲の高さにちかづくと龍そのものだ川の流れは
水族館を回遊している人の群れ鱗の反射ゆびさしながら
きみの囁いたさ行はオホーツク海高気圧のやませに交じる
仮留めのように結んだくちびるの端にあえかにふれるまひるま
たゆたうの滞空時間計る夏 ゆめでもおなじことをしていた
あしたには影もかたちも残らない鬼灯市の植木屋の声
水色の桔梗によく似た傘だった 今も記憶の宮殿に咲く
だけどただ何度も何度も思い出す忘れることと同じになるまで