





第11回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞
俳句「赤子の重さ」短歌「からふるな街」自由詩「バナナ」
横山 航路
短歌「からふるな街」
組み立ててドアよりでかい本棚がボトルシップのような六畳
いじられるために伸ばした前髪を隔てて誰も構ってくれない
落書きの「にしおか♡ 」のあと消えていて僕で良ければ結ばれておく
温暖化 池にはまったどんぐりと遊んでくれるどじょうがいない
本買って家にもあって本棚に二冊並べて自分が好きだ
約束を自分に課してパソコンに向き合うときのこの腕まくり
テーブルを叩いたのちの沈黙にグラスの水は震え続ける
割れた、ではなく皿を割る 居酒屋に自分の意志で制服を着る
自転車とつがいのようで漕ぐことは行為のようでどこへも行ける
からふるな街のすべてを引き受けてもう黒にしかなれない夜空
俳句「赤子の重さ」
遠縁に出産のある野分かな
すりりんご子孫のいつか不老不死
会議室冬日は誰も否定せず
着ぶくれて瓶の中なる海賊船
すべり台より泣きながら春着の子
はくれんの白くて空をおびやかす
桜撮る手がベビーカーより離る
エアガンは赤子の重さ余花の雨
寝そべつて出発までを扇風機
切符青し軽を飛ばして海涼し
自由詩「バナナ」
呼び止められた。
振り向くと
いっとう美しいバナナだった。
危ういほど確固たる芯が
青さの抜けきらない
その身を貫く。
手に取ってみると
やはり青臭くて
それでいて
ほのかに柔らかかった。
しかし参ってしまう。
もう何も失えない私だというのに
どうしてそれを得られようか?
やはり
この店に来るべきではなかった。
私には手の届かないものばかりを
見せつけられるだけなのだから!
――ふつふつと
何かに駆り立てられるままに
手が伸びる。
房から
一本を引きちぎって、
コートのポケットに入れる。
バナナもそれを望んでいたかのように
すぽりと入った。
今、机の上には
一本のバナナだけだ。
じきに追い出されるこの部屋で
バナナだけが美しい。
腹は空いているというのに
どうも食う気になれないのは
ある種の妬みのせいかもしれない。
それから幾日かを暮らした。
バナナは
未だに机の中央にあって、
私は
惑星のように部屋を歩き回る。
ふいに
持ち上げてみる。
上から眺めている分には
あの輝かしい若さの色であったが、
裏を覗くと
それは私の色をして腐っていた。
指先でつんつんと押す。
今までとは違う
やわらかさがあった。
また幾日かを暮らした。
確固たる芯は
もはや形をとどめていない。
裏も表も醜く変わり果てたそれは、
この部屋によく馴染んでいる。
ざまあない、と思った。
ようやく
これを妬ましく感じることはないのだ!
輝きを失った部屋で、
私は一人
快哉を叫んだ。