蛭の履歴 竹岡 一郎

  • 投稿日:2016年08月06日
  • カテゴリー:俳句

0806

蛭の履歴   竹岡一郎

三味の音や舌塚のため罌粟咲かせ
すずしき眼舐めさせ呉れし姐御の死
嫁ぎけり大蛭の森いとしめど
夕虹も腕もねぢられるためにあつた
鏡に向かひお前誰よと明易し
蛇よ麗しきまぐはひなどあるかよ
蛭が蛭さとし聖は緋を偲び
乳房の育つ榎へしたたれよ 
看経を聴く蛇となり拝む手生え
ちぬ釣つて家紋を負うて鬼あまた
海月みな飛んで伽藍をめざすらし
掛けざるを得ず夜光虫まみれの眼鏡
一歩ごと海月踏む苦も仇の忌
托鉢の道はいつでも水喧嘩
囃されて蛸の玉乗やりきれぬ
たましひの甘きがにじむ寝冷かな
梅雨闇をひすいの研磨して耐へる
胴欲の天使へ夏至の放射能
銃剣に糸取映る明治かな
殷賑や契約の虹歪みきり
レッドカーペットにくつろぐおろちを跨ぐ
昼顔のやうに覇王へ凭れるな
粛清あと血泥を捏ねてゴーレムに
殉難者いづれは鱏と化すぞ刺すぞ
扇子屋に幼馴染の戦争屋
用済みの議員沈めて鱧の餌
海溝に恒久にマネキン開脚
子育ての人魚に死艦ありがたし
仇の忌ひるね覚めたら海沸騰
珊瑚らの炎が巨き蟹茹でをり
奸臣を追ひつめマグマ瀝々と
大義果敢無し賢しい君の鰻釣
粋な白靴代々の戦争屋
アロハ着てハワイを向いて人柱
人喰蟹の味噌を啜れば錆びゆく浪
戦争屋地平涼しくしてやると
うまし野の糸車にて蟻たかる
隕鉄を慕ふ熱砂の動乱図
蠍座立つ瀕死の博士看取るべく
花火わくわく君の生死に拘らず
蓮見へと病衣はためかせて脱走
かの唇をこじ開け避暑の扉とす
白皙や旧き灯台売り歩く
スカートの中が嬉しい雨蛙
少女分裂白檀茂る工場内
丸刈り眉剃り鞄ぺちやんこなる帰省
錆町の古墳灼けゐて産む人型
向日葵が射撃の的となる茶番
人柱から地割れけり祭呑む
蔓たちが顔砕きゆく晩夏来る
教授の腐臭娼婦の炎闘ふ川床
をんな野ざらし空蟬がぴくぴくす
蠍座のすさぶ露台に刺されさう
瞼には闇が痛いよ鵺の妻
床板に透ける業火や扇風機
朝凪や荒れた畳に乳かわく
咒符あかく濡れ熊蟬の声とがらせ
密輸人炎えれば麝香猫の糞も
腐草螢となるも黒板製作所
白南風へエメラルド吐き散らす旅

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