短歌時評 第23回 田中濯

思ひたえなむ

週刊俳句の週刊俳句時評45回「総合誌の時代の終焉?これからの俳句とメディア」(神野紗希)を興味深く読んだ。『俳句研究』誌の事実上の廃刊をうけた文章であり、これからの総合誌に求められるものはなにか、がテーマである。

神野は、総合誌に公器としての役割、があることを強調する。有象無象の中から精選した情報を載せる能力をもち、ある程度の流通力を備え、ブランド力とそれを担保する読者層を獲得していること、これらをもってして総合誌は公器足りうるとしている。異論はない。その上で神野は、「新人の発掘・育成やスター作家のプロデュース」「良質な評論を世に出していくこと」を重視すべきだと説く。このあたりかなり突っ込んで書いており、実際の総合誌編集者には言い分もあるだろうとは察する。確かに「誰が読むの?」と首を傾げたくなるような「how to モノ」が短歌総合誌の誌面をも賑わせた時期もあったが、総合誌編集者はこのジリ貧の状況のなか、よくやっていると私は思っていた。

そこへ入ってきた短歌新聞社解散・『短歌現代』終刊のニュースである。私の理解では、『短歌現代』誌は旧アララギ系や地方小結社主宰などの御歳をめされた歌人に対して門戸をひらき、若年層の取り込みや新人賞作家の後押しなどに関しては消極的な立場をとる、いわゆる老舗だと考えていた。しかし、都会のかたはご存知ないだろうが、地方の本屋に行くと、置いてあるのはなぜか必ず『短歌現代』のみなのであり、したがってオーソリティになっているのである。その地に住む人々はネットがない場合『短歌現代』が短歌への第一のアクセス手段となり、あまりよくない傾向だとも考えていた。そこで、今回のニュースである。

『短歌現代』の読者と、「詩客」の読者はおそらくかぶらないけれども、短歌を根底で支え続けていたのは『短歌現代』の読者であって、われわれではない。彼らは、サイレント・マジョリティと呼ぶべき存在であり、文化的な面からも、市場経済的な面からも、深く尊敬すべき集団である。問題は彼らの年齢が相当高いというところにあり、仕事をリタイアし新たに短歌を始めた団塊の世代の人々よりもさらに一回り高いと予想される。簡潔に言えば、『短歌現代』は寿命だった。サイレント・マジョリティはついにサイレントのまま、その拠るべき雑誌を喪ってしまったのである。これは大きな地殻変動を伴うだろう。現存する短歌総合誌は彼らを取り込むために新たな企画を打つかもしれない。茂吉や文明といった彼らのアイコンを特集することで、『短歌現代』後継を打ち出すかもしれない。全体的に保守化する可能性もある。しかし、地方書店から短歌総合誌そのものが消えることになること、あるいは全体のパイそのものが小さくなることのほうがむしろ予測されるところに、『短歌現代』終刊の憂鬱さは存在する。また、負の連鎖反応がおこらない、とは誰にもいえない問題でもある。

総合誌にとって読者の獲得は絶対の命題である。そうでなければ、経営が立ち行かず、「公器」としての役割を全うすることなどできはしない。むろん、各誌さまざまな取り組みや新企画が実行に移され、すでに定着・名物化している企画もある。角川『短歌』の「短歌検定」や『短歌研究』の「うたう★クラブ」はすでに歴史を重ねてきている。これといった新機軸に挑戦していない『歌壇』その他には奮起を率直に期待するものである。

ところで、私は短歌関係以外に雑誌を月五誌定期講読している。そのうち人文系は『本の雑誌』と『将棋世界』であり、今回短歌総合誌と比較検討していささかの発見があったので報告しておきたい。それは二誌とも「マンガ」をささやかながらも載せている、ということである。『本の雑誌』はストーリー型、『将棋世界』は四コマと異なるが、目の休めには具合がよい。よく考えてみれば、新聞すらマンガを載せているのである。全くマンガを載せていない短歌総合誌のほうがむしろ希少種なのではないだろうか。

実はマンガと短歌は相性が非常によい。大和和紀『あさきゆめみし』、やまだ紫『しんきらり』、最近では末次由紀の『ちはやふる』が挙げられるだろう。また、杉田圭『うた恋い。』は百人一首を丁寧に物語化・マンガ化して10万部越えのベストセラーになっている。実際出来はよく、私は

今はただ思ひたえなむとばかりを人づてならでいふよしもがな 左京大夫通雅

この歌を、つまらん歌だ、と思っていたのだが、『うた恋い。』を読んで考えが変った。うん、それなりによろしいではないですか、と。このように、意外なところで足を掬われるということもある。NHK天気予報の「春ちゃん」が人気を博す昨今である。今後、短歌総合誌にマンガキャラが躍動することになったとしても、私は驚かない。

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