

連載8回
おかえりなさい
亜久津 歩
1
夏の早朝のまばゆさ
濡れた植物の匂い
まだ彩度の低い空と
受光する積雲と
今日も暑くなりそうですね
薄いごみ袋を手に
泡のように肯き合う
最期かもしれない一日
社会 のなかで
汗ばむことを恐れなくなった
風が止むとき
悪臭を放ち滲み出る己れが
まぼろしでないとしても
風が吹くとき
毀れ落ちるものが
まぼろしのままであるように
2
わたしのからだが
わたしのもとへ帰ってきた
水を飲ませて
綿を吐かせて
丁寧に洗ってあげよう
沁みないように手当をしたら
安堵に満ちた寝室で
思う存分 眠るといい
もう大丈夫だよ
どれほど美しい皿にも二度とのらない
明日は何処へ行こうか