第8回詩歌トライアスロン鼎立部門候補作 短歌「楽器」俳句「舞台」自由詩「本当」 黒井 いずみ

第8回詩歌トライアスロン鼎立部門候補作

短歌「楽器」俳句「舞台」自由詩「本当」

黒井 いづみ

短歌十首「楽器」

ポケットをたたけばいつかのハンカチと付箋がふたつあらわれて春

もうずっと寒かったんだ 荒れた手が荒れたまんまで暦をめくる

女の子座りできないめくるめく夢を裏切りながら生きたい

サックスと呼べば呼ぶほどごきげんな楽器のように空色が来る

ベーシストみたいな髪の美容師が語ってくれるウクレレのよさ

カーステで聞いてた曲がスマホだと別物みたい それぞれに好き

昨日まで聞こえなかった歌詞がありそれが聞こえたときの夕焼け

葉桜のひかりのようによろこんでone of themのままここにいて

さかさまに開くポピーのスカートの、これ見よがしに幸福になる

忘れ物して折り返すその道を踊りに変えていく心意気

俳句十句「舞台」

留め金のすぐに外れて散る桜

鶯の谷渡りキャラ付けは死ね

青き踏む踏んだところを舞台と呼ぶ

風薫るわたしはカレー混ぜない派

ばらのばらオスカルを追い越していけ

いつ着ても若草色のカーディガン

TWICEの布を増やして山滴る

強くなる必要はない風は死んだ

フラペチーノは夏の季語 ○か×か

踊るのに許可のいらない国の夏

自由詩「本当」

どうやったら外国語が話せるようになりますか、

と聞かれて、

アイドルでも俳優でもいい、

好きな人にインタビューする場面を想像しましょう、

と答える。

もっと当たり障りのない答えをいくらも持っている、

でもわたしはそのようにして口を慣らした。

好きなことや本当にしたいことは

どんどん言葉にしなさいと聞いたのはいつだったかな。

銀色は銀河の色、

たぶん異国の銀行の色。

ぼら、

と唱えれば、

紫色の魚がわたしをのぞき込む。

黒はあなたのまなざしの色、

今この瞬間もっとはまっていく、

というのはよくある歌詞で聞き覚えた。

そのように口から心に住まわせた色いろと、

好きな人たちのまぼろしの中から、

ある日ひとりの女が目の前のテレビにあらわれたのだ。

短い髪にまるい顔、

紙吹雪を自分で引っつかんでばらまいて、

長いスカートをひるがえして踊る彼女を見ていたら、

あ、なんでだか涙が出そう。

たぶんわたしもこんなふうに踊りたかった、

この腕、この脚、この体、

ぐるぐると歩いてきた道を、

全部まとめてよろこぶように。

わたしの夢、夢にも見なかったような夢を、

わたしの代わりに本当にする人がいる。

つられて伸ばした手さえ踊りのように思えて、

つま先で床を押してみたら、

お、

(踊れる?)

(踊れる!)

短い髪が空気をつかまえる、

着慣れたスウェットの裾だって、

脚を振り上げれば衣装のよう。

ずっと心に住まわせて、

口を慣らしてきたまぼろしが、

今わたしを踊らせていく。

わたしはわたしの体をこうしてよろこぶことができるのだ。

飛び跳ねて飛び跳ねて、

まだ彼女のまなざしは黒く深く、

今この瞬間、

さらに色いろを湛えてわたしを見る。

(踊れる?)

わたしは答える、

覚えた言葉を全部使って、

踊れる!

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