連載第3回 如雨露他四篇 鈴木 康太

連載第3回
如雨露 他四篇
鈴木 康太

如雨露

雫をふるいました

むかし
妖怪のなまえのついた
あなたがいました

雫をふるいました

しずかに開いて
しずかに閉まる
ドアがありました

雫をふるいました

どこかでは
ラブレターを書きました
ラブレターは書かれるともう
滲まない線でした

雫をふるいました

縮めたり縮めなかったりした
毛が吹きこみました
意志のある白髪もいました

雫をふるいました

あなたに近づきました

また水が来ます 

バラ

傾いた点滴
傾いた海
傾いた噴水
傾いた画びょう
に刺さる
傾いた素足
廊下の先

重なっている地下鉄がゆれた
銀の手すりは都会用

改札にたむろする人たちが
鷲のようにみえた

この子は
柔らかいのかしら

泣くほど
人間になっていくのなら
これは
まだ
しぶき
私は
人間からほど遠い
適量ということばを使われないし
こんな
きもちいい水のなか
座礁からも
はるか
遠い

忘れられた世界

熱い
ゆでたまごの殻をむいた手で
押しボタン式
押す
神輿が止まる
私が通る
あなたも通る
どこからかぷかぷか流れてきたあなただった
あなたは自己紹介をした
あなたは二度名称を変えていた
あなたは樹皮をなぞった
神輿はきらきらしながら
止まったままだった
あなたは
ワイシャツの袖をめくった
その手で
くらげに
餌をあげたという
あたりは
止まった神輿で
満ちていた

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