連載第4回
谷間 他四編 鈴木 康太

連載第4回
谷間 他四編 鈴木 康太

谷間

私が
太古の昔から生き続けているなんてこと
あなたは調べもしないのに決め込んだ
罰だ
あなたが
枯れない花を植えすぎて地面から光が消えて
居場所ができてしまった
罰だ
あなたに会ったのも、
会わなかったのも、
海なんてただの水なのに一行にできなかった
壊れた灯台の
罅だ

作ろうと壊そうと
あなたは何とも思わないのだ
花と花のあいだに芒の一群れがあった
あなたは
さわりながら喋りはじめた
涙は、光りながら漂う夕暮れの下で
そのような死ねないものたちの
匂いを放つ

旅館の窓

エルモア
400枚(200組)
ティッシュペーパーが
エルモアの口から
2枚(1組)
出ている
その
紙の出方は くの字
太陽に
覆いかぶさっている
エルモア
箱がすこし潰れている
緑色の山


穏やか

帰るとき戸をしめるのをわすれないでね

どんな海。
おぼえてない。怖い海。
そう。そうなの。
助けてほしい。
私たちは普通の抱擁ができなかったのだから
いちばんかんたんで、造作ない
方法をした。
それから頷いた。
電飾がついた。
「沈んでいっちゃうよ、私といると」

水量が足りなくて
メリーゴーランドは沈まなかった
メリーゴーランドは
速度を緩めた
ヴェネツィアは
こんなふうだろうか
生き残りが
窓から覗いていた
微笑んでいた
僕はそのまわりを
わずか
二、三周泳いだ

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