蝶 三輪 晃
翅のなき蝶を捜せりいましがた破られにける夢のなごりに
醒めてまづ眼にとらへたる天井のしらじらとしてえ触れざりけり
たしかめてかたはらにあるみづからのいまさらにして全てを疑ふ
いましばし闇をとどむる一室の窓辺に倚りて雨と隔たる
見下ろせる位置より見ゆるあらかたも繰りかへすわが空想のひとつ
そこはかとなく何かしらかたちどる雨音を近く遠く聴きゐつ
鏡台に向かひ緩慢に髭を剃るその表情を知るまじ誰も
わが吐きしつばきシンクの底へ消えそれきり二度と還らざりけり
翅あらば展翅したきを夜もすがらその総身の透き徹るまで
ともしびを吹き消すやうに部屋を出づ眠れるわれをそのままにして