第10回詩歌トライアスロン三詩型鼎立部門受賞連載
二〇二二年春(後)
山崎 秀貴
【居住国ドイツはNATOの一員】
核兵器投下の確率十分と士業の知人はドバイに逃げつ
友人の街はヨウ素が配られて、うらやましいな、ぼくもほしいな
【当地もウクライナも今夜から夏時間】
一時間短き夜は与うらん一時間長く生きし〈事実〉を
気がつけば過ぎたる一週のうちに家財を捨てて国を出し人
気がつけば過ぎたる一月のうちに徴兵されて銃を撃つ人
ケチャップをオムライスへとかけるときゆっくりと押す飛沫かぬように
【露語・宇語は、軟音や明瞭な母音を特徴とする】
やわらかき音の言葉がよく響く部屋にて繰り返される拷問
黒焦げの廃墟の報道写真には人影を見ず何枚繰れど
【キーウに居る我をおもえり眼鏡がまず砕けて見えぬ銃口に向く(吉川宏志)】
キーウに居る想像控え日本の猫の動画を浴びる寝どころ
日本に逃げたいと思う、とりあえずまわりに海が欲しいと思う
そうぼくには平和で安心安全な日本という逃げ場があるのです
【特定の信仰はなきが】
キーウに居らず戦禍の地にも生まれずしてわれ神様のお目掛けならん
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【連れあいは教員】
露人教師と宇人生徒の揉め事を電話で聞きぬファミチキを手に
うどんを食べラーメンを食べしていれば血の大陸をとおく思えり
戦地の人、亡命の人、支援の人、大陸の人、尊し ぼくは
〈嫌なものと距離をおくこと〉ぼくはぼくの明るい人生を送ります
(終)
山崎 秀貴(やまさき ひでたか)
一九九三年、大阪生まれ。ドイツ・ハンブルク在住。楽園俳句会。Twitter: @hdtkymsk