朗読火山・俳2013 縄文の人 仲 寒蝉
春
土こねし指の間を芹の水
春浅き土偶の尻をととのふる
仕上がりし土偶いく度も撫でて春
囀りの中や土偶の乳(ち)の隆き
春の闇に塗り込めてある土偶かな
霾るや土偶の大いなる鼻に
夏
万緑の真つ只中に置く土偶
よき土を求め青嶺を越えにけり
滴りに打たれてゐたる土偶かな
黒揚羽多し土偶を埋めし山
まだ鰭の動く若鮎土偶の脇
土偶に目刻めばどつと青嵐
秋
秋澄むや土偶のまなこ横ひとすぢ
朝露を混ぜ埴土をこね上ぐる
白露の土偶の臍をぬらしけり
水の秋土偶の尻を洗ひやる
欠けてゐる土偶の腕へ月明り
土偶埋もれて旗すすき吾亦紅
冬
首のなき土偶重なり合つて寒
まつすぐに土偶の臍へ寒月光
雪焼けの土偶を作る雪焼けて
降る雪の土偶の周りだけ積まず
冬眠の蛙の真上なる土偶
土偶の胸ながめてをれば春近し
ふたたび春
足をまづ春の大地に据ゑ土偶
雪解川土偶の股に発しけり
土偶の腹にて春風の向きかはる
蕗の薹出るに土偶の尻が邪魔
春光や見るともなしに土偶の目
海市消え浜に残りし土偶かな
作者紹介
- 仲 寒蝉(なか かんせん)
「港」同人
「里」同人
第50買い角川俳句賞受賞
句集『海市郵便』(邑書林2004年)
文集『鯨の尾』(邑書林 2007年)