〈自然〉を詠む・撮る・描くーローマ・ヴェネチア・シチリアー             佐佐木頼綱

教会堂ドゥオーモを見上げかざせし手の記憶 冬の日射しをほどく音する

満ち潮に黙して座せる母子像の青き乳房に鳴る櫂の音

赤き陽の散りばめられて漁師らの重き投網を引き上げる歌

洞窟の礼拝堂に薔薇売りの祈りも死者も目を閉じるかな

葉漏れ陽の輪郭の音 朝市のレモン担ぎの男の髭は

中庭に時を重ねし胸像トルソーの記憶は花の散り方に似て

崩れたる壁画の色にまだ残るギリシア人が閉じ込めた空

夕かけて小雨に濡れる街角に焼き栗売りの声の香れる

夕立のレモン畑に秘めやかに神話も雨も続きゆくかな

夜静か ありし日のまま彫像が剣振りかぶる空の銀色

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