サルマキス二〇一二 ― 水の森 ― 浦河奈々

サルマキス二〇一二 ― 水の森 ―

サルマキスはギリシア神話の泉の精である。少年ヘルマフロディトスに恋したが拒まれ、彼に抱きつき永遠に一体になりたいと神々に祈ったところ二人は一体となり、男女両性となった。

朝沼に森くろぐろと映りをりわれのむざねのきつと棲まへる

いまわれは沼の水際の枝にゐて獲物を狙ふかはせみのまみ

目玉なるわれはゆきたし水の森いづこにかある瞑れば出づる

水界をいつかくらぐらゆくわれは魚なり いづこの水の森まで

「水の森」くぐれば墨絵のやはらかさ掻きわけ掻きわけ降り、溶暗。

暁闇にするどき稲妻みたるごと肌を刺さるる痛みに醒めぬ

醒めたる身のいたみは己を捨てられぬいたみは殻なき貝のわたくし

ああこひはあるいは己をにへとしてまつたき消滅ねがふこころか

サルマキス恋しきひとと一体に溶けあひたれど消えざるわれは

溶けあへばぶあつくなりしをみななるわれサルマキスが発(た)つ水の森

けふわれは地に身を摩りて這ふ蛇のうつつに摩れてこその生かも

作者紹介

  • 浦河奈々

一九六六年茨城県生まれ。二十代後半短歌に出会う。二〇〇五年歌林の会入会。二〇〇七年短歌研究新人賞次席。二〇〇九年かりん賞受賞。同年第一歌集「マトリョーシカ」を上梓。同歌集にて第十回現代短歌新人賞受賞。

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「作品2012年7月6日号」の記事

  

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