受粉期   柳澤美晴

受粉期      柳澤美晴

親指の手術痕いたむあかときをなまぐさき風は雨をともなう

酔ったような気がしてしゃがむ この星の自転速度ははわたしにははやく

目ものどもかゆい受粉期 死ぬまえに食べたいものがきみとはちがう

ローソンはもうあかるくてちぇちぇちぇちぇちぇるのぶいりと羽虫を焼く灯

そうめんのおいしい初夏ですするすると老いてゆくのは初期設定です

避難訓練わらったやつが先に死ぬということもなく非常口白し

わたなかのそこだけ火事であるような珊瑚樹となるきみを抱き寄せて

プラスティックパックにならぶ鶏卵のいずれにも受胎告知あらなくに

偏頭痛やむまでひどく意識する右のこめかみの血管の位置

水無月の闇濡れており千匹のかわずの声が肌にはりつく

おりおりに部屋は冷蔵庫よりさむく含嗽剤のしみとおる喉

作者紹介

  • 柳澤美晴(やなぎさわ・みはる)

一九七八年北海道旭川市生まれ。未来短歌会所属。「硝子のモビール」で第十九回歌壇賞受賞。二〇一一年第一歌集『一匙の海』上梓。『一匙の海』で第二十六回北海道新聞短歌賞、第十二回現代短歌新人賞、第五十六回現代歌人協会賞受賞。

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「作品2012年6月22日号」の記事

  

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