サンドペーパー・バレエ  榎本櫻湖



サンドペーパー・バレエ  榎本櫻湖

少年は醜く吸血鬼との 
浅ましい接吻に時間を叩き壊していった 
なにかダニのような虫が這っている 
いくつものハエトリソウの鉢植えにむかって 
会釈するのはやめにしなさい 
そうした忠告も無視して 
牙をぬいた肩口から 
メモ用紙が 
 
輪郭が滲んでしまって 
潜望鏡のように朝を知覚できない 
むしろ蛍光色の雨合羽を着て林道を歩いていると亡霊のようだ 
愕然と顎の関節を外して卵を吞みこもうとしている 
たとえば蛇のような細長い人魂の走った筋を 
目で追っては網膜を微温湯で洗う 
 
貧乏も嗅覚と味覚に唆されて 
十七歳くらいの少年が輸血パックから 
直接味わう稀血 
看護師はとめられない 
悪食の美少年 
 
麻痺した背中から 
蝙蝠の翼が生えていたら 
それはただの幻想にすぎない 
だから多くを疑って 
生きてきた 
陰茎を 
擦りながら 
 
風船に被せられた 
避妊具の帽子をとって 
またも会釈(挨拶) 
排卵する雌豚どもを屠殺せよ 
そのうえ少年の股座を温めよ 
陰嚢が塩梅よく活動的になってきた頃 
地球外では 
硅素によって鋳造された 
球形のものたちが 
鋏を手にしてたち尽くしている 
彼らはぬくもりをしらない 
蠕動する 
管を 
 
盛りのついた猫が赤子のように哭く 
宝石箱から模造サファイヤが盗まれた 
なので猫の目を刳り貫く 
 
簡易制便所にて 
こんな貼り紙をみつける 
「娘よ、 
 桃色を下部に照射し、 
 それをねめつけられるのは、 
 まことに心地のよいことです」 
道路の舗装には 
少女の体液が必要らしい 
日焼けした少年は昼をすぎても 
舌なめずりをしている 
逞しい腕の筋肉は 
躍動する

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