くらげのように巨大で半透明の…… 福田拓也



くらげのように巨大で半透明の…… 福田拓也

くらげのように巨大で半透明の女が汚染された青い海から浮かび上がろうとしている、あるいは塩が凝るようにこをろこをろと列島として凝固しつつあるその寒天状の海面を絶えず誤読する神話はやがて声の抑揚となって空を織りなし広大な眼球の渦巻く中心の闇からその向こうの光の生まれる未知の土地その広がりに横たわる丹をまぶされた女の肢体は四方八方に伸びその末端の形作る砂丘の綻びるところで風は生まれかかっては消える様々な文字を刻する眼球の裏側の夜と夜明けの光の混じる血のような空気が凝るところでめくれ上がった砂の羽飾りそこでほどけて行くのは崩れ行く頁に記された得体の知れない文字群でそれは地平の傷から漏れる朝の光に無数の金粉のようにきらめいている、光の刃が実はその巨大な匈奴の女ののたうつ腹を切り裂いていることを僕は知らなかったのだろうか、そこに見開いていたはずの眼はオーロラの空に射し込む曙光のみを見ていたのではなかったか、もはや一冊の書物もないのだから僕にできることはその叫びを、その叫びが火の先端のように夜の寒天質の肉体に秘かに刺し込まれている、夜がその深く静まった瞳の底で同心円状に言葉を漏らすことはないであろうからその叫びを記憶するためにはまずはその叫びを無の頁の空しい光の中に書き記さねばならなかった、その朝焼けの血に染まった逞しい腕に抱かれるようにして人麿の亡霊めいた裸の男は石を踏み外しつつ岩場を辿りやがては遥かな性感帯の望める草の生えた恥丘へと歩を進めようとしている、そこから先の闇の中に降りる急峻な石段はもはや視界の外にある、濡れる石段は霧の中を蘆山の谷底へと下りそこは白い光が渦巻くだけの世界で亡霊めいた影は全裸のまま滝壺に消え女の腹の露わになる滝の向こう側に消失するその岩の隧道を辿ると程なく再び視界は開け鉛色の空の下岩場だけが広がる、岩に覆われた傾斜地と空との接合点の辺りに傷の如き裂け目が大地の陰唇と呼ばれるそれであり岩根さくみてなづみ来しそこに目指す女の肢体は見えなく思へば鏡山をめぐるその裏箔状のさざめきに海を見ることもなくむしろ様々な幻影の文字を見るしかないだろう、漢字の画数のその石壁の向こうに風が吹き渡り木々の葉のさやぐ水面には同心円状に字面を変化させる波が広がるだろう、滴る鳥の伸びる故地まで差し向ける文字の連なり、その光と闇の交錯と行き交う火の矢の果てに文字を読み取る視線があるとすれば新羅の山並みを網膜に映し出す古代の光がそのまま保存されているその頁の厚みとは言えぬ厚みを飛ぶ鳥はやがて空の青を書き記すたたなずく青垣山隠れる大和は新羅の風景の写しとなり岩場に伏す骸に打ち寄せる波の記憶と匈奴の女の逞しい肢体がそのまま赤茶けた岩場として屹立しその岩棚に石を積みただひたすら呪文を唱えている、連なる語尾はその活用変化を経てそのままクレタ島の地下宮殿の如き迷路を形成し、

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「作品 2011年9月23日号」の記事

  

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