梅の鉢 大辻隆弘

  • 投稿日:2013年01月04日
  • カテゴリー:短歌

梅の鉢

冬至すぎて光かへりくる窓はあれど春待ちがてぬ父のいのちは

わが庭に芽ぐみし父の梅の鉢を父に見しめむすべのあらなく

澄みながら暮れゆく空を病むひとの()にゆきかよふときに見たりき

背に腕を添へてからだを起こすとき年寄りになりきりし父と思へり

ねばつける入れ歯を外しやりたれば()のゆるぶまで病み呆けにけり

紙マスクの紐にゆがめる耳たぶの横顔見えてひとは眠りぬ

五階より見おろす野辺は押し枯れて冬野に沈むまへのしづけさ

小心と保身を彼に遺伝しておもへば一生(ひとよ)なかばも過ぎぬ

()のごときひとと触れなば()ぎゆかむ炎の縁をよこぎれる雪

しらじらと街の灯りに照らされて明るむ雲の下をかへり来

作者紹介

  • 大辻隆弘(おおつじ たかひろ)

1960年三重県生。1986年、未来短歌会入会、岡井隆氏に師事。現在「未来」選者。現代歌人協会会員、現代歌人集会理事長、中部日本歌人会副委員長。歌集『水廊』『デプス』(寺山修司短歌賞)『汀暮抄』など、歌書『岡井隆と初期未来』『アララギの脊梁』(日本歌人クラブ評論賞・島木赤彦文学賞)など。

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